理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-261
会議情報

一般演題(ポスター)
訪問リハビリ開始時の支援方法と効果の検討
山室 美幸江口 宏大久保 智明百留 あかね鈴木 圭衣子米田 恵美子竹内 睦雄江原 加一堀 健作野尻 晋一山永 裕明
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抄録
【目的】
訪問リハビリの開始時は様々な課題が山積している。そのため開始時は利用者の生活状況により訪問リハビリが支援する課題に優先順位を付けて支援する必要がある。そこで今回、開始時の関わりとしてサービスをより効果的に提供するために、生活場面での課題に対しどのような支援が選択され効果をあげているのかを検討したので報告する。
【方法】
対象は2008.5~2009.5に当センターより訪問リハビリを開始した50名である。内訳は、男性22名、女性28名、平均年齢77.3±10.8歳。
調査項目は、1.開始時と3ヵ月後のFIM(運動項目)と実施計画書(起居動作、日常生活・社会活動、日常生活関連活動)2.開始時に担当セラピストが課題項目として挙げたFIM、実施計画書の項目3.開始時から3ヶ月間のリハビリ実施内容である。
調査1:訪問リハビリ開始時のFIM、実施計画書の減点項目と課題項目を比較した。なおFIMでは5点以下、実施計画書では自立・見守り以外を減点項目とした。
調査2:訪問リハビリの介入の頻度を調査した。
調査3:FIMと実施計画書の各項目の改善の有無をWilcoxonの順位検定により分析した。各評価項目の改善と訪問リハビリ実施内容の関係性についてχ2検定を用いて調査した。
【説明と同意】
本研究は当法人の倫理委員会の規定に基づき研究したものである。
【結果】
調査1の結果
減点項目>課題項目(減点項目に対して課題とされた項目が少ないもの):FIMでは食事、整容、清拭・入浴、更衣、浴槽移乗、階段昇降、実施計画書では排泄、家事、外出、屋外歩行、買い物、乗り物であった。
課題項目>減点項目(課題項目に対して減点項目が少ないもの):FIMでは移動、トイレ動作であった。
減点項目=課題項目(減点項目と課題項目がほぼ一致したもの):FIMではベッド移乗、トイレ移乗、実施計画書では起居動作、コミュニケーション、トイレへの移動であった。
調査2の結果
移動(96%)が最も多く介入していた。屋外移動(62%)、起き上がり(50%)、トイレ動作、ベッド・トイレ・浴槽移乗(46%)に対し介入していた。
調査3の結果
FIMの合計点は96.2→98.9点と有意に改善していた。
FIMの改善項目は更衣、ベッド移乗、トイレ移乗、移動(p<0.05)、実施計画書の改善項目は立ち上がり、立位、外出、トイレ動作、階段昇降、屋内・屋外移動(p<0.05)であった。各項目の改善と訪問リハビリ実施の関係では、トイレ動作、トイレ移乗、浴槽移乗、座位、排泄、コミュニケーション、家事、乗り物、買い物に関係があった(p<0.05)。
【考察】
調査1の結果より、訪問リハビリ開始時の評価上の減点項目と生活場面での課題項目には差が生じていた。その中でも清拭・入浴、更衣、浴槽移乗、階段昇降、外出、屋外歩行、買い物、乗り物は減点項目よりも、課題項目が低いという結果になった。この理由として、清拭・入浴、浴槽移乗などは他のサービス利用によって支援されることが多く、介助を前提としている場合があるため、訪問リハビリ開始時には課題項目としては優先されにくかったと考えられる。一方、評価上の減点項目よりも課題項目として多く挙げられた移動やトイレ動作は、生活を確立するために最低限必要な項目の一つである。トイレ動作は、セルフケアの中でも頻度が多く、その日のコンディションや昼夜の状況によって在宅の環境下で変化しやすい。初回の評価結果の自立度のみに頼るのではなく、一定の期間在宅生活の中で確認が必要とされるため、減点項目でなくても課題としてあげられたと考える。
調査2の結果より、移動やトイレ動作、移乗に対する介入が多いという結果になった。これは結果1に挙げられたように、トイレ動作は課題としての優先順位が高いと判断して、セラピストが集中的に介入したためと考えられる。また、屋外歩行への介入は、減点項目より課題項目が少ないにも関わらず、実施頻度が多かった。これは、屋外歩行を応用歩行練習というよりは、生活圏拡大による閉じこもり予防や、外出による主体的な更衣動作への働きかけを意図して実施したためと考える。
調査3の結果より、開始時の課題点に対する介入により、移動やトイレ移乗だけでなく更衣や外出などの項目で改善がみられ、訪問リハビリの効果と考える。以上のことから、訪問リハによる介入では、評価上の減点項目に対してだけではなく、在宅生活に即した課題を抽出し支援していくことが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究の結果より、訪問リハビリ開始時の状態を把握し効率的に介入するためには、FIMなどの客観的な評価に加え、課題項目の優先順位や利用者のニーズに沿った生活場面での問題点を抽出し、訪問リハビリの介入内容を検討することが重要と考える。
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© 2010 日本理学療法士協会
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