抄録
【目的】小児領域の訪問看護・訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)の発展は、平成6年、健康保険法などの改正により0歳児から利用可能となり始まった。当施設は北海道の政令指定都市札幌にあり小児医療としてクリニック、福祉機能として通園事業などを併せもつ施設で、平成11年度から訪問看護ステーションによる訪問リハを開始し、今年度で12年目となった。現在、訪問リハの分野は介護保険による運営が中心で小児領域の訪問リハについての報告や文献も散見する程度しかない。
今回、当施設の訪問リハ利用者について調査を行い、小児領域の訪問リハの現状を報告することを目的とする。また、施設本体の事業との関係性についても併せ報告する。
【方法】平成15年4月から平成21年3月までの期間に一定の訪問頻度(最低月1回)で定期的な訪問リハを受けていた利用者で、介護保険及び医療保険でも小児領域疾患ではないものを除外した55名(0~40歳、平均13.7歳)を対象とした。方法は訪問看護・リハ記録より1)診断名、2)開始年齢、3)開始理由、4)開始時の姿勢運動レベル、5)超重症児スコアーによる重症心身障害児・者(以下重症児・者)割合、6)訪問リハ内容、7)姿勢運動レベルの変化、8)継続者と終了者の各利用期間、9)終了理由について後方視的に調査した。
【説明と同意】今回の研究調査を行うに際してステーション管理責任者の同意、協力を得た上で行った。また本研究には個人情報を特定できる内容は含まれていない。
【結果】1)脳性麻痺46%、脳炎脳症等が15%、てんかん系・筋疾患・奇形・代謝系がそれぞれ7%であった。2)6~18歳未満の開始が41%で18歳に近づくほど増える傾向にあった。3)リハビリ希望以外の主な理由として「退院後のケア」「外来困難となったため」が多かった。4)5)臥位レベルが56%、超・準重症児・者も含め何らかの医療処置が必要な者は60%であった。6)基本動作練習ROM-Exは全例に、その他家族指導・変形拘縮治療・ホームプログラム指導・補装具作製修理をそれぞれ8割以上の利用者に行っていた。7)向上が7%でその他は変化なしであった。8)継続者(32名)で平均4年8ヶ月(3ヶ月~8年10ヶ月)、終了者(23名)で平均2年4ヶ月(1ヶ月~5年9ヶ月)であった。9)通園リハへ移行26%、死亡17%、外来リハへ移行・施設入所が各13%、入院が9%であった。
【考察】利用者は小児リハで主に対象となる脳性麻痺が多く、開始時期も2次障害が発生し始める学齢期~18歳までが多かった。開始理由から訪問リハは退院後(在宅生活開始時)のケアや外来リハが困難になったケースの受け皿となっていた。また、姿勢運動レベルや医療処置の必要性から重症児・者の比率が高かった。訪問リハ内容からは基本的なリハアプローチの他に、家族指導、補装具作製修理、社会資源紹介、他職種の在宅支援者(ヘルパーや教員など)への指導、社会参加支援など、地域リハ及び社会制度全般の視点と知識が多くのケースに必要であった。訪問リハの効果として、治療者としては変化を認識できるがその変化を客観的に示す手段がない。これは年齢、疾患、重症度がさまざまな小児領域の訪問リハにとって現在、適切な評価方法がなく、特に重症児・者が多いこともあり変化を適切に評価しにくい傾向にある。利用期間については5年以上の継続者が40%と長期化しやすかった一方、終了者の39%は利用から2年以内に通園でのリハや外来リハへほとんどが移行していた。
また、他の社会資源への移行に関しては施設本体の事業や地域療育等支援事業によるコーディネーターの役割が重要であった。
【理学療法学研究としての意義】少子化の時代ではあるが、重症心身障害児の発生率は人口1000人あたり0.3程度と推測され、在宅生活を送る重症児・者が増えていることも事実である。そのことからも小児領域の訪問リハの充実が望まれるものの現在その報告は少なく、分野の発展に必要な実績と効果を示していく段階には程遠い状態となっている。そのことからも今後、全国の小児領域の訪問リハ実施施設と共に現状を集約し訪問リハの一分野としての役割を認知されたい。