理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-187
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一般演題(ポスター)
6週間にわたる低負荷運動の継続が入所者の心身機能と生活に与える効果
工藤 真大岩月 宏泰
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キーワード: 高齢者, 運動, 生活
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抄録
【目的】本邦では高齢化率の上昇に伴い,今後とも介護を必要とする高齢者の増加が予測される.近年,特別養護老人ホームにおいても要介護度が重度化する傾向にある.そのため,障害の重度化を予防し,健康に「その人らしい生活」を継続させるには,適度な運動が重要であると考える.当施設では,機能訓練指導員として理学療法士1名が常勤しており,役割の1つとして個々に適した運動の提供に努めている.しかし,機能訓練指導員が全ての入所者に運動指導することは業務上困難なため,集団体操の機会を提供することが必要と考えた.そこで,低負荷(2~3Mets)の健康体操「和の体操」を考案し,ユニットで誰でも行えるよう教材用ビデオを作成した.今回は,ユニットで行う前に訓練室にて集団で実施し,心身機能および生活に与える効果について検討したので報告する.

【方法】対象は医学的問題がなく,体操に継続して参加された施設入所者11名(男性1名,女性10名),年齢が73歳~93歳(平均年齢85.7±6.5歳)であった.評価は,身体面で握力,主観的疲労感,棒落下テスト,関節可動域を計測,心理面ではやる気スコア,生活面ではBarthel Index,老研式活動能力指標を用いた.参加者には,全て座位の運動で構成された「和の体操(1回20分)」を,集団でテレビの画像を見ながら行った.体操の頻度は週3回とし,6週間継続(平均延べ参加数20±3.2回)して行った.体操終了後には,前述の項目を再評価したほか,日常生活面の変化は職員に聴取,体操後の感想は参加者からアンケートを行った.なお,統計処理にはSPSS(ver16.0)を用い,対応のあるt-testとウィルコクソンの順位和検定を行った.

【説明と同意】対象に対して,直接口頭にて本研究の目的と趣旨を説明し,同意を得た.

【結果】6週間後の心身機能の項目では,主観的疲労感(p<0.001)と棒落下テスト(P<0.001)で有意な改善が見られたが,握力,関節可動域,やる気スコアには差を認めなかった.生活関連項目では,Barthel Indexと老研式活動指標に変化はなかったが,自然排便が見られた(体操前は0回,体操期間中に2回),下剤の使用が減った(体操前は概ね週1回服用,体操期間中は不要)などの改善がみられた.また,他者の部屋への訪室と散歩の機会が増えたなど,社会面での良好な変化が見られた.さらに,体操の感想についてのアンケートでは「体が軽くなった」「楽しかった」「食事がおいしく感じた」等の好意的な感想が聞かれた.

【考察】本研究結果から,低負荷の運動を継続することで,易疲労性と上肢を主とした敏捷性は改善された.それらの改善により,新たな日常生活動作の獲得には至らなかったが,規則的な生活を過すことが出来,運動への関心が高まったことが,体操後の好意的な感想になったものと考える.また,以前は本施設での集団体操の機会は少なかったが,「和の体操」をきっかけとした他者との交流の機会を得られたことが,部屋への訪室回数や散歩の機会の増加に影響したと考える.さらに,排便の改善は,継続した運動の機会が増えたことで,腸の働きが促進された影響と考える.

【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,特別養護老人ホームに配置された理学療法士が多職種との協働を図ることで,積極的に入所者の健康に寄与しうることが明らかとなった.
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© 2010 日本理学療法士協会
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