抄録
【目的】介護サービスを利用するためには要介護認定を受ける必要がある。要介護認定の方法については、自治体によってバラツキがある、介護にかかる手間が反映されていないなどの理由により、2009年度に認定調査員テキストが修正された。しかし、その後も検証・検討がなされており、今なお、要介護認定基準については議論の必要があるようである。当施設介護予防通所介護サービスにおいて、利用者より「要支援1と要支援2は何が違うのか」といった疑問の声が聞かれることがある。認定調査の基本項目には、身体機能・起居動作が含まれているが、それらの項目が要介護度の判定に与えている影響については明確ではない。そこで、当施設において要支援1・2の利用者に3ヶ月に一度体力測定を行っていることを踏まえて、要支援1と要支援2という要介護度が身体機能によって説明できるのかを検討した。
【方法】対象者は、当施設の介護予防通所介護サービスを利用されている要支援1・2の64名(平均年齢82.8±7.1歳)である。そのうち、要支援1の利用者は17名(平均年齢83.1±6.9歳)、要支援2の利用者は47名(平均年齢82.6±7.2歳)であった。身体機能の調査項目として、2008年8月から10月の体力測定結果を用いた。体力測定の項目は、右握力・左握力・30秒椅子立ち上がりテスト(以下、CS-30)・長坐位体前屈・Functional Reach test(以下、FR)・右開眼片脚立ち時間・左開眼片脚立ち時間・5m通常歩行時間・5m最速歩行時間・Timed Up & Go test(以下、TUG)とした。要支援1と要支援2を目的変数、各体力測定結果を説明変数として、どのような因子が要支援1と2の判定に影響するのかを重回帰分析を使用して調べた。また、回帰の有意性の検定には分散分析を行い、有意水準5%未満をもって有意とした。
【説明と同意】対象者には、調査の主旨・目的、そして調査実施期間中の要介護度・体力測定の数値のみを使用するものであり、個人を特定できないことを説明し同意を得た。
【結果】要支援1、要支援2における各体力測定項目の平均値は、右握力(19.7±8.5kg / 17.6±6.3kg)、左握力(18.8±9.4kg / 17.8±6.7kg)、CS-30(11.5±3.7回 / 10.9±4.8回)、長坐位体前(22.9±6.8cm / 26.6±7.8cm)、FR(28.2±6.5cm / 28.8±6.0cm)、右開眼片足立ち時間(11.28±13.63秒 / 9.22±9.04秒)、左開眼片足立ち時間(12.24±17.02秒 / 8.97±10.39秒)、5m通常歩行時間(5.36±1.18秒 / 6.75±2.78秒)、5m最速歩行時間(4.21±1.23秒 / 5.16±1.87秒)、TUG(10.59±3.58秒 / 11.82±5.75秒)であった。重回帰分析の結果、要支援1と要支援2を説明している身体機能の項目はなかった(p>0.05)。
【考察】今回、身体機能として用いた体力測定の項目では、要支援1と2の認定基準を説明することが困難であった。これは、要介護認定の基本調査に含まれる項目が高齢者の生活にどのような影響をあたえているかを理解するための構成であるのに対して、当施設で行っている体力測定の項目は、身体機能を中心に構成されているためではないかと考える。また、対象が要支援の認定者であったため、身体機能に差異がみられなかったことが推察され、今後、他の要介護度認定者を含めた検討が必要である。介護サービスの利用者においては、要介護認定調査による介護度でサービス利用の負担額が異なるため、要介護認定は、全国一律の基準に基づき公正かつ的確に行われることが重要である。そして、理学療法士(以下、PT)による介護サービスの提供においては、個々の利用者の心身機能や環境に対しての評価、適切なアプローチが求められる。また、その介入効果を分析し利用者へフィードバックする必要がある。現在の要介護認定では、一次判定にて状態像を介護の「手間(時間)」に変換した後、二次判定で特別な介護の手間が発生しているか、要介護認定など基準時間が妥当であるかなどを議論することで要介護度を認定している。専門職として、PTが認定審査会による二次判定へ積極的に参加していくためには、認定調査への問題提起や調査における基本項目を説明できるPT評価項目を検討する必要があり、要介護認定の判定に影響する因子として、PT評価項目に生活機能に関する評価を含めること、何より分かりやすく判定するために、より客観的な評価法の検討などが必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】認定調査においてPT評価がどう関わることができるか探る必要がある。介護保険分野でのイニシアティブを発揮するための一指標となることを期待する。