抄録
【目的】
地理情報システム(Geographic Information System:以下GIS)は、地理的位置情報にさまざまな情報を属性として持たせ、生活に密着した地理情報を日常生活のツールとして利用できるメリットがある。GISを用いた高齢者や障がい者に対する研究は、都市計画や交通、防災や災害時避難シミュレーションなどで主に行われている一方で、リハビリテーション領域ではGISに着目した研究はなくGISが得意とする「地域」を扱う研究の多くが、訪問リハビリテーションや介護予防事業の有効性などを中心とした研究にとどまっているのが現状である。
今回、国土地理院が推進する「電子国土」を利用した独自のWeb GISシステムを試作し、歩行割引率と空間分析の手法であるバッファ分析の概念を用いた活動範囲の視覚化を試みたので紹介する。
【方法】
独自のWeb GISシステムの構築には「電子国土」を利用した。電子国土は数値地図25000空間データ基盤をシームレスに使用できる環境と、作図機能や検索機能を付与する多くのAPIが提供されている。また、地図に表示させたい情報はベクタデータとして点、線、ポリゴンの3種から任意に作成し、xmlファイルとして読込ませレイヤー層化して表示させることが可能である。ラスタデータも座標を付加すれば表示は可能で、汎用性の高いツールであり、無償提供が最大の特徴である。
今回試作のシステムには、座標を任意に指定し、その座標中心から条件下で変化する到達距離を半径(r)メートルのバッファとして発生させる(正式には作図機能に距離情報を与え半径(r)メートルの円を描画する)機能を組み込み、擬似的なバッファ分析として表現することとした。到達距離を算出する方法は、歩行速度(m/s)に歩行時間(分)を乗じたものとし、時間の設定は任意に調節可能なものとした。歩行速度には歩行割引率を適応し、個別の属性(年齢や性別、杖使用や車椅子使用など)によって予め算出されている歩行速度でも、実測によって求められた歩行速度でも距離が算出できるようにした。
なお、2分以上では疲労による歩行速度の割引が起こるものとして歩行速度に0.9(高知県海洋局漁港課,2005)を乗じて算出されるように設定した。
【説明と同意】
本システムの試作に当たって実証実験は未実施のため説明と同意は行っていない。
【結果】
プラグインをインストールことで、作図機能を効果的に利用出来る簡易なシステムを構築することができた。電子国土は世界測地系JGD2000に準拠した地理座標系で、地図情報自体が(メートル)距離単位の内部情報で管理されている。到達距離はメートル範囲で描画されることから、より身近な生活空間の視覚化が可能であった。
さらに、Google Mapsとの連動も可能で、ジオコーディングを行えば、自宅の経緯度座標も取得が可能であり、今回のシステムに実装させることが可能であった。また、電子国土上で取得した任意の座標をGoogle Mapsの座標にフォーカスを切り替えることも可能であり、Google Mapsの基本機能の使用も可能であった。
【考察】
電子国土の最大のメリットは無償でWeb GISシステムの構築が可能であることである。
作図機能のみならず、地名や公共施設の情報も空間データ基盤の基本情報として利用できる機能も実装可能である。また、共通のファイル形式(xml)を使用することで、全国どこでも等質の提供が可能である。
今回、作図機能を利用した活動範囲の視覚化を試みた。身近な応用としては、バッファを発生させる条件として退院前に事前に歩行速度を計測すれば、自宅を中心とした実際の活動範囲を視覚化して提供できるだけでなく、歩行速度というシンプルな情報のみで身体機能の変化に伴う生活空間の拡縮をシミュレーション出来ることなどが上げられる。また、Google Mapsの基本機能である「ルート」を利用した避難ルートや目的地までのルートガイドも可能で、より実用的な地図情報をシステム本体と切り分けて使用する環境での構築も可能である。今後、Web GISを地域リハビリテーションの情報化ツールとして、利用者のニーズにより応えられるシステムの構築を図りたい。
【理学療法学研究としての意義】
日本理学療法士協会が開発したE-SASは高齢者の生活空間を評価する新しい評価システムである。イキイキとした生活空間の広がりを実際的な地理的地域空間情報に置き換え提供することは、新しい地域リハビリテーションの展開につながると考えられ、発展性のある研究領域と考える。