理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-230
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一般演題(ポスター)
床反力計荷重解析システムによるデジタル体重計を用いた閉運動連鎖下肢筋力測定法の検証
齊藤 康文濱田 智森脇 佳央里河村 顕治片岡 光酒井 孝文梅居 洋史山下 智徳
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抄録
【目的】超高齢社会を迎えて健康運動指導の必要性が高まる中で、安価で簡便な閉運動連鎖(以下CKC)下肢筋力測定法の開発を目指している。デジタル体重計とベルトを用いた閉運動連鎖下肢筋力測定法の妥当性について床反力計荷重解析システムを用いて検証することを目的とする.

【方法】対象は健常若年女性12名(年齢:19.3±0.5歳,身長:160.9±3.1cm,体重:55.7±4.8 kg)と健常高齢女性18名(年齢:76.3±4.4歳,身長:148.6±4.9cm,体重:50.4±7.8kg)である.床反力計AccuGait (AMTI) 1枚を組み込んだ荷重解析システムToMoCo-FP(東総システム)をカスタマイズし,右下肢についてCKCで床反力計を蹴る矢状面の運動を側面から撮影したデジタルビデオカメラの映像と床反力ベクトルとの重ね合わせ画像をリアルタイムに記録することができるようにして足部出力の計測を行った.床反力計の上にデジタル体重計を載せ,同時に計測を行った。計測肢位は先行研究より,椅子座位で体幹垂直位,股関節屈曲90°内外転0°内外旋0°膝関節屈曲60°,足関節背屈10°とし,右足部をデジタル体重計に乗せた.この時、床反力計は水平面に対して40°の傾斜で設置されている。幅5cmの環状に連結した固定用ベルトを用い,腰部は第12胸椎棘突起レベル,足部は足底中央部になるように床反力計の下からベルトを通し,腰部と足部を閉鎖固定した.5秒間のCKCにおける等尺性最大足部出力を測定した.この時、固定ベルトは股関節と膝関節の中間を通過する。2回の練習の後,3回測定し平均値を求めた.統計処理にはSPSS Statistics 17.0を使用した.デジタル体重計と床反力計の基準関連妥当性は,ピアソンの単相関を用いた.

【説明と同意】本研究は,吉備国際大学「人を対象とする研究」倫理規程,『ヘルシンキ宣言』あるいは『臨床研究に関する倫理指針』に従う.吉備国際大学倫理審査委員会に申請し,審査を経て承認を得た.(吉備国際大学倫理審査委員会 受理番号:08-05 )そして対象者に対し「臨床研究説明書と同意書」により研究の意義,目的,不利益および危険性,口頭による同意の撤回が可能であることなどについて,口頭および書類で十分に説明し,自由意志による参加の同意を,同意書に署名を得て実施した.

【結果】足部出力体重比(kg/kg)は床反力計で若年者1.7±0.4,高齢者1.1±0.4であり,体重計で若年者1.6±0.4,高齢者1.0±0.4であった.足部出力の方向は床反力ベクトルと床反力計垂直方向との成す角度で若年者15.6±3.5度,高齢者19.3±3.8度であり,ほぼ固定ベルトの走行に沿っていた.本法の基準関連妥当性を床反力計計測値の垂直成分と体重計計測値の相関でみると,若年者ではPearsonの相関係数 r=0.994,高齢者では r=0.998とどちらも1%水準であった.また本実験中に膝関節の疼痛を訴えたものはいなかった.

【考察】健常若年女性と健常高齢女性におけるデジタル体重計と固定用ベルトを用いた閉運動連鎖下肢筋力測定法を,床反力計を組み込んだ荷重解析システムを用いた計測と合わせて行い,基準関連妥当性を検討した.その結果,足部出力の反力は固定用ベルトに沿った床反力ベクトルとして観察された.また,床反力計と体重計の基準関連妥当性は,健常若年女性r=0.994,健常高齢女性r=0.998となり1%水準で高い相関がみられた.また先行研究の結果では骨盤と足部を固定したCKCにおける足部出力の方向は股関節から足部に向かう傾向があり,大腿四頭筋優位の出力が行われるとされている。しかし、本法のように固定用ベルトを配置すると、股関節と膝関節の間から足部へ向かって出力が誘導され、大腿四頭筋とハムストリングのバランスの良い出力が行われる。変形性膝関節症などの膝痛を有する高齢者には運動時に大腿四頭筋とハムストリングの共同収縮が行われることが望ましい。デジタル体重計と固定用ベルトを用いた閉運動連鎖下肢筋力測定法は高齢者の下肢筋力の計測法としては膝関節に安全で有用と考えられる。

【理学療法学研究としての意義】本研究により,高齢女性においてはデジタル体重計を用いた閉運動連鎖下肢筋力測定法は足部出力の垂直分力を反映しており、健康運動指導などに応用できると言うことが判明した。この測定法が確立されれば,簡便にCKCでの脚伸展筋力の評価が実施でき,理学療法学研究としての意義は大きい.
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© 2010 日本理学療法士協会
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