抄録
【目的】我々の研究室ではin vivoに近い培養環境でES細胞から脈管を形成するために、アテロコラーゲンを用いた三次元培養方法を確立した。2009年の本学会では、この三次元培養法で、ES細胞塊から多数の脈管を形成できることを報告し、これが脈管形成モデルになりうることを示した。VEGF(血管内皮細胞増殖因子)は、脈管形成および血管新生に関与する一群の糖タンパクであり、多くの血管研究モデルにおいて脈管形成、血管新生を誘発することが報告されている。先行研究でもVEGF処理したES細胞は脈管形成するという報告もある。しかし、アテロコラーゲン三次元モデルにおけるVEGF効果の詳細な検討はされていない。また、PDGF-BBは脈管構造の形成を促進すると共に、動脈やリンパ管への分化も誘導する。そこで本研究では、アテロコラーゲンを用いた三次元脈管モデルにおいて、VEGF処理がどのような影響を与えるか、VEGFとPDGF-BBを併用した場合にどのような効果が得られるかを解析することを最終目的とした。予備実験として、本モデルにおける問題点を見直し、細胞数、培養日数、胚葉体形成方法について検討を行った。
【方法】マウスES細胞を、Hanging drop法(以下HD)により胚様体(以下EB)を形成した。EBをアテロコラーゲン内に埋め込んで固定し、その上に通常培地を加え、2週間培養を行った。この方法において、EB1個あたりの細胞数、培養日数、レチノイン酸(以下RA)濃度、EB形成方法について検討した。細胞数については、EB1個あたりの細胞数を100個、300個、500個、1000個の4群に分け、それぞれ先述した方法で三次元培養を行い、その経過を光学顕微鏡により形態学的に比較した。培養日数については、HDを行ってから三次元培養を開始するまでの日数を2日、4日の2群に分け、同様に比較を行った。RA濃度については、0μl/ml、0.1μl/ml、0.2μl/mlの3群に分け、同様に比較を行った。EB形成方法では、HDとマイクロスフェアアレイを用いて比較を行った。VEGF効果は三次元培養を開始した培地にVEGFを添加し、11日間培養を行った。培養中は光学顕微鏡で経過を観察し、培養11日目に、動脈マーカーであるEphrinB2、リンパ管マーカーであるFlt-4で免疫蛍光染色を行った。
【結果】HDは4日間行った群では、多数の出芽が認められた。細胞数は300個が最も出芽を多数認め、EBが崩壊することもなかった。RAは、添加しないと脈管系への分化は少なく、多いと神経系への分化が進行した。0.1μl/mlでは、神経系や心筋細胞などが少なく、脈管系への分化が観察された。EB形成法にマイクロスフェアを用いるとEBの大きさが均一になり、脈管系の出芽も多く観察された。VEGFの効果は、三次元培養2日目にはEBからの脈管出芽が認められ、その後枝分かれと伸長を続け、11日目には広範なネットワークを形成した。EphrinB2の発現は認められず、Flt-4は一部認められた。
【考察】三次元培養法の見直しにより、アテロコラーゲン三次元培養法を脈管形成モデルとして用いる際の最も効果的な条件が確立した。また、VEGFはアテロコラーゲン三次元培養法においても血管新生を誘発することが示唆された。PCRを用いた遺伝子レベルでの詳細な効果検討とPDGF-BBとの併用効果については現在解析を行っている。その結果については本学会で発表する予定である。
【理学療法学研究としての意義】脈管形成は理学療法の効果と深く関わっている。本研究のようなサイトカインと脈管形成との関係が明らかになれば、これを利用した炎症時、その回復期のプログラムの立案において参考になる。