理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-002
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口述発表(特別・フリーセッション)
腰部脊柱管狭窄症術後の在院日数に影響を与える術前因子の検討
術前のJOABPEQで予後予測が可能か?
岡田 覚新田 智裕
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抄録
【目的】腰部脊柱管狭窄症は下肢への放散痛や間歇歩行を呈する疾患であり,とりわけ移動動作を困難とする疾患である.腰部脊柱管狭窄症により腰椎固定術を施行し,術後経過良好で短期間での退院も多い反面,長期化する症例も少なからず存在する.腰椎固定術に関しては術後理学療法に主眼が置かれ,クリニカルパスや術後評価を中心に理学療法が進行しているのが現状であり,術前機能や能力が術後の予後判定に用いられる事は少ない.当院では自己記入式アンケートとして日本整形外科学会腰痛評価質問表(以下JOABPEQ)を記入していただき,疼痛関連障害,腰椎機能障害,歩行機能障害,社会生活障害,心理的障害の障害因子を点数化し、術前の病態把握を実施している.本研究では、JOABPEQの術前5障害因子の点数と理学療法診療録を用いて各対象者の在院日数を調査することでJOABPEQの各因子が在院日数にどのような影響を及ぼすかを検討した.
【方法】対象は平成22年6月1日から平成22年9月30日までの3ヶ月間に当院にて腰椎固定術を施行,自宅退院した14名(男性:7名,女性:7名,年齢:65.42±10.5歳)とした.なお,中枢疾患を有するもの,脊柱手術の既往のある者,研究に同意しない者を除外基準とした.従属変数を在院日数,独立変数をJOABPEQの各障害因子の点数とし,SPSSVer.11J(SPSS JAPAN)を用いてステップワイズ法による重回帰分析をおこない,在院日数に影響をあたえる独立変数の障害因子を検討した.各障害因子に関しては,シャピロ・ウイルク検定にて正規分布に従う変数であることを確認した.また,すべての検定での有意水準はP=0.05とした.
【説明と同意】術前アンケートは,理学療法の効果判定,術前の病態把握に利用すること,二次的に研究に用いる可能性があることを書面,口頭にて説明し,研究での使用を拒否する場合は,アンケートの署名は拒否でき,拒否したことでの不利益はないことを説明した.研究に関して同意を得られた場合,署名をしていただき,みなし同意とした.また,診療録を後方視的に検討する研究では包括同意により同意と説明は必ずとも必要でないとされる.しかし,倫理的配慮から,署名に同意して頂いた者に対して,アンケート,診療録を研究に利用すること,個人が特定されない配慮をすることを再度説明し,同意を得られた者とした.
【結果】対象者の在院日数は19.35±10.79日,分散分析はP=0.002であった.重回帰分析により標準偏相関係数が-0.748の心理的障害が在院日数に影響を与える術前因子となった.標準偏相関係数では疼痛関連障害(-0.324),腰椎機能障害(-0.115),歩行機能障害(0.134),社会生活障害(0.023)が除外された独立変数となった.重回帰式の予測精度はR2=0.560であり,予測精度が高いと解釈でき,在院日数=42.390+-0.481×JOABPEQ心理的障害点数という回帰式が成立した.また,ダービンワトソン比=1.906であり,残差の異常はないと判断した.
【考察】本研究において,在院日数の長期化する傾向に関しては,心理的障害が強く影響することが示唆された.腰部脊柱管狭窄症に関して,腰痛自体を訴える症例は少なく,むしろ,活動時の下肢への痺れ,痛みなどの異常感覚により日常生活活動をはじめとする活動性が低下することで,より心理的障害が進行すると考えられる.腰部脊柱管狭窄症の羅患者は65歳前後といわれ,超高齢化社会におけるわが国においても増加する疾患とされている.あわせて,高齢者のうつ病などの精神活動性低下も問題となり,活動性低下により社会的な関わり合い,趣味活動の低下により,腰部脊柱管狭窄症の病態での心理的障害のみでなく,術前の患者は精神的にも良好な状態であるとはいえないと考える.在院日数の減少は様々な意見があるが,早期に社会生活の場へ帰すという観点からは重要なことであると同時にリハビリテーションという語源に関わる根本的な発想であると考える.本研究では,心理学的障害が在院日数に影響を及ぼす結果となったが,心理学的障害の根本は腰椎脊柱管狭窄症によるものという原点に返り,さらなる要因への追求をおこなっていきたいと考える.
【理学療法学研究としての意義】本研究により得られた結果は,腰椎固定術における術前評価の重要性を示すのみでなく,術前の心理状態に着目することで在院日数の短縮につながる可能性が示唆され,術後の理学療法実施においても,運動機能のみでなく,心理的側面にも働きかける必要性があることを示す結果となった.
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© 2011 日本理学療法士協会
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