理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF2-004
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口述発表(特別・フリーセッション)
軟骨全層欠損モデルの新たな作成方法の検討
動物を用いた低侵襲モデルの作成
高橋 郁文細 正博松崎 太郎小島 聖渡邉 晶規北出 一平
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抄録
【目的】
関節軟骨の修復能は非常に低く,その要因として血管やリンパ管,神経を欠く組織であること,軟骨細胞自体の修復能や分裂能に限界があること,滑膜より産生される関節液によってのみ栄養されることなどが挙げられる.動物実験モデルを用いた軟骨修復に関する先行研究では,多くの場合,関節包を切開し,関節を開放した状態で軟骨損傷を作成している.しかし,関節を開放することで,軟骨の乾燥,滑膜の損傷,滑液の喪失などが二次的に生じてしまう.また,軟骨への栄養は滑膜に依存していることからも,関節を開放することは軟骨の修復に影響を与えていると推測される.以上から,本研究では関節を開放せずに軟骨全層欠損を作成する低侵襲方法を考案し,その妥当性を検討した.加えて,修復軟骨の時間経過による変化を病理組織学的に検討した.
【方法】
対象として9週齢のWistar系雄性ラット20匹を使用した.腹腔麻酔下にて左膝関節を最大屈曲位とし,剃毛後,膝関節前面を消毒した.皮切後,関節包を露出し,大腿骨内顆に直径0.8mmのキルシュナー鋼線を用いて関節包上から深さ2.0mmの穿孔を行った.穿孔部位は膝関節最大屈曲位において膝蓋腱上下縁中央の高位にて膝蓋腱内側縁から膝蓋腱幅1/2内側部とした.穿孔後,穿孔部からの出血を確認し,皮膚を縫合した.実験動物は10匹ずつ術後8週群,12週群の計2群に無作為に分類した.外科的処置後は,膝関節の固定と免荷や関節可動域練習は実施せず,ケージ内を自由に移動でき,水,餌を自由に摂取可能とした.飼育期間後,安楽死させ,両下肢を採取した.右下肢は大腿骨内顆の同様の部位を穿孔した後,膝関節を解剖し,ICRS Knee Lesion Mapping Systemを用いて肉眼的に穿孔部位の位置を評価した.また,左下肢はホルマリンにて組織固定し,脱灰した後,切り出しを行い,膝関節内側部断面標本を作製した.中和,パラフィン包埋後, 3μmに薄切し,ヘマトキシリン・エオジン染色を行い,光学顕微鏡下で穿孔部位を撮影し,画像を基に軟骨修復の状態を評価した.
【説明と同意】
本研究は金沢大学動物実験委員会の承認を受けて行い(実験番号AP-101763),実験動物の飼育,実験および屠殺は金沢大学宝町地区動物実験指針に遵守して行った.
【結果】
全対象において外科的処置後数時間で覚醒し,歩行を開始した.また,全実験期間を通じての死亡例はなく,肉眼的また病理組織学的にも感染はコントロールされており,実験終了時点で創は治癒状態であった.
穿孔部位の位置については,すべての穿孔が大腿骨内顆の外内側方向では中央部に,前後方向では中央部後方から後方部前方に位置していた.病理組織学的結果では,8週群では軟骨損傷部は正常な関節軟骨に類似した硝子軟骨組織によって修復され,12週群においても同様の傾向が認められた.
【考察】
本研究の目的は,動物を用いた軟骨全層欠損モデルにおける低侵襲方法の妥当性を検討することであった.
穿孔部位の検討結果では,すべての穿孔が大腿骨内顆の外内側方向では中央部に,前後方向では中央部後方から後方部前方に位置していた.この部位は先行研究において荷重部と報告されている部位であり,穿孔部位として荷重部に正確に軟骨全層欠損を作成できていると考えられた.
また,病理組織学的検討では,損傷後8週からほぼ正常な関節軟骨に類似した硝子軟骨様組織による修復が認められた.一般的に軟骨修復は種や年齢,損傷の部位,深さや大きさ,損傷からの時間経過などによって影響を受けることが知られている.これまでラットや家兎などの小動物を用いた先行研究では,損傷8週後から12週後にかけ,損傷部が硝子軟骨によって修復されると報告されており,本研究においても同様の傾向が認められた.
これらのことから本研究にて考案された低侵襲方法は軟骨全層欠損モデルを作成する上で,有用であると考えられた.今後は標本数の増加を前提とし,不動や免荷などの条件を付加することで,関節運動や荷重による力学的負荷の影響を長期にわたって検討する必要があると考える.
【理学療法学研究としての意義】
現在,関節運動や荷重などの力学的負荷が軟骨代謝に及ぼす影響はIn vivo, In vitro共に幅広く研究されているが,軟骨修復に対する力学的負荷の影響は十分に解明されているとは言い難い.しかしながら臨床ではCPMの使用や関節の固定,免荷期間が設けられるのが現状である.そこで,本研究をより発展させることでCPMの使用頻度,関節の固定や免荷の期間,程度などの必要性に対する議論が可能になると考えられる.
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© 2011 日本理学療法士協会
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