理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF2-021
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口述発表(特別・フリーセッション)
水平外乱による姿勢反応の筋活動パターンについて
萬井 太規泉 達弥三浦 宏介浅賀 忠義
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キーワード: 姿勢反応, 筋活動, 運動制御
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抄録
【目的】
床面の水平動揺は,スリップやバスの発着時など日常で少なからず直面する.立位姿勢の前後水平外乱に対する姿勢反応から姿勢動揺の強弱によってHip strategy, Ankle strategy (Horak & Nashner, 1986) が周知されている。Robert & Latash (2008) は胸部への水平外乱によって自動姿勢反応期 (APR: 外乱後80-180ms) では同時収縮筋活動パターン(Co-contraction Modes: 下肢各関節の主動作筋と拮抗筋の活動),随意的反応期(VR: 250ms-450ms)では相反性筋活動パターン(Reciprocal Modes: 腹側の筋群または背側の筋群の活動)であることを報告している.しかし,外乱の強弱の違いによる活動パターンについては検討されていない.従って,本研究の目的は床面水平外乱による姿勢反応の筋活動パターンについて,2つの姿勢反応期においての外乱の強弱の違いを明らかにすることである.
【方法】
1.対象:健常若年者10名を対象とした(年齢:21.6±0.8歳,身長:165.6±11.3cm,体重:57.3±10.0 Kg).2.使用機器:1)床面水平刺激装置(2 directions):水平移動5cm、最大速度13cm/sec (小外乱),水平移動10cm、最大速度19cm/sec (大外乱)とした.2)三次元動作解析システム:一側矢状面上の頭部・体幹・上肢・下肢の9マーカー座標を200Hzで収集し,ROMを算出した.刺激装置上に刺激開始時間決定のためのマーカーを付けた.3)筋電計:一側の前脛骨筋(TA)、外側腓腹筋(GL)、内側腓腹筋(GM)、ヒラメ筋(SOL)、大腿直筋(RF)、外側広筋(VL)、大腿二頭筋(BF)、半腱様筋(ST)、腹直筋(RA)、脊柱起立筋(ES)の10姿勢筋から筋活動を導出した(1KHz).3.実験方法:被験者は刺激装置上に上肢を体側に垂らし自然立位をとった.外乱後にステップを踏まないように指示した.4課題(2外乱×2方向),各課題15回ずつ計60回をランダムに実施し、外乱は検者がランダムなタイミングでトリガーした.4.解析:筋活動パターンは主成分分析による第1-3主成分 (PC1, PC2, PC3) の因子負荷量で求めた.まず,標準化された筋電値から25ms毎 (bin) の積分筋電値を求め,APR (移動開始後80-180ms) は120行 (4 bins×15 trials×2 directions) ×10列 (muscles),VR (移動開始後200ms-400ms) は240行×10列のデータをそれぞれ外乱強度別に分析した.主成分毎に10筋の因子負荷量 (10次元ベクトル) の類似性を解析するために,最小二乗法を用いて40ベクトル (2外乱強度×2姿勢反応期×10人) の中心ベクトルを求め,中心ベクトルと各被験者の4ベクトル (2外乱強度×2姿勢反応期) とのcosθ(両ベクトルの内積)を求めた.つまりcosθが1に近い程両ベクトルは類似していることになる.得られたcosθはさらにFisher’s z-scoreに変換された.統計解析には2-way ANOVA{2外乱×姿勢反応期(APR,VR)}を用い,危険率5%とした.
【説明と同意】
実験前に,被験者に十分な説明を行い署名にて同意を得た.本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得ている.
【結果】
主成分分析の結果,分散比率は大外乱のAPR,VR,小外乱のAPR,VRの順に,76.4±2.1%,68.9±3.5%,73.0±3.2%,67.0±2.5%で有意差はなかった.全被験者の平均因子負荷量から,大外乱のAPRでは一側の体幹筋と反対側の下肢筋(群) (PC1: RA, GL, GM, SOL; PC2: ES, TA) の活動パターンがみられた.我々は,この新たな活動パターンをSway Modes と称した.大外乱のVRまたは小外乱のAPR, VRはいづれもReciprocal Modesがみられた.z-scoreを用いたANOVAの結果,外乱強度および姿勢反応期ともに有意差がみられた.
【考察】
Hip strategyはSway Modesで,Ankle strategyはReciprocal Modesと考えられる.大きな姿勢動揺に対しては中枢筋群とその反対側の末梢筋群との協調的な筋活動が要求される.また,中枢神経システムは急速に筋活動パターンを変化させる能力がある.
【理学療法学研究としての意義】
外乱刺激に対する姿勢戦略の筋活動パターンを明らかにすることは,姿勢制御の理解を深めると共に,バランス訓練効果の指標および新たな運動療法の開発に有用である.
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© 2011 日本理学療法士協会
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