抄録
【目的】
維持期脳卒中患者は在宅生活を送る中で、徐々に非麻痺側優位の動作遂行となり、麻痺側筋緊張の亢進を助長し、結果として動作効率の低下を招くことになる。このことは多くの文献が示していることである。しかし、我々はこのような患者に対しても短期集中的に麻痺側下肢荷重を意識した理学療法を施行することで、麻痺側筋緊張の軽減や動作効率の向上を経験する。そこで今回、動作効率の低下と下肢荷重バランスの関係性に着目し、維持期脳卒中患者に対し重心動揺計を用い入退院時の下肢荷重バランスと重心位置の変化について調査したので報告する。
【方法】
対象は2010年3月から2010年10月までに入退院した杖歩行可能な維持期脳卒中患者15名である。内訳は、脳梗塞9名、脳出血6名、平均年齢は69.3±10.0歳、発症からの平均月数は95.0±46.3ヶ月、平均BIは85.0±7.0点であった。また、平均入院期間は22.0±1.6日であった。方法は入院時と退院時に重心動揺計(アニマG-620)を用い、30秒間の開眼静止立位にて下肢荷重バランス、重心位置を計測し、麻痺側・非麻痺側の下肢荷重バランス差、重心位置の変化を比較した。また、10m歩行スピードも測定した。なお、これらの患者に対しては、在宅生活に必要なセルフケア動作を中心とした動作の再確認・指導に加えて、麻痺側荷重を意識した立位や歩行訓練を1日2から3単位、週7回行った。統計処理にはSPSSVer.17を使用し、Wilcoxon検定を行った。
【説明と同意】
本研究は、当院の倫理規定に沿って対応した。
【結果】
麻痺側と非麻痺側の下肢荷重バランスの差は、入院時31.5±20.4%、退院時は18.2±23.2%と有意に平均に減少を認めた(p<0.05)。重心位置は入院時中心位置より非麻痺側へ平均15.4±9.8%に位置していたが、退院時は平均6.8±10.4%となり重心位置が有意に中心に近付いた(p<0.05)。平均歩行スピードは入院時57.0±52.6秒から退院時平均53.3±52.8秒と有意に向上を認めた(p<0.05)。
【考察】
分析の結果、麻痺側・非麻痺側の下肢荷重バランス差、重心位置、及び歩行スピードにおいて有意な変化を認めた。このことから、維持期脳卒中患者に対して麻痺側下肢荷重を意識する理学療法を施行することは、立位の麻痺側下肢荷重量の増加、歩行スピードを向上させることに繋がり、より効率の良い動作遂行の可能性を示唆していると考えられる。今回の対象者が過度に非麻痺側優位の動作となっていたかは明確ではないが、本研究の結果を受け、引き続き調査を行い移動レベルの違いによる下肢荷重バランス差、TUGやFBSなど他の臨床評価との関連性について検証し、維持期脳卒中患者の日常生活における動作効率や生活の質の向上に繋げていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果は、維持期脳卒中患者の動作効率、心身機能管理に繋がる重要な要素になると考える。