理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-186
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ポスター発表(一般)
脊髄損傷者の車いす転倒・転落に関する研究 3
車いす仕様との関係
平田 学堀田 夏子那須田 依子
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抄録
【目的】
下肢機能に重度な障害を持つ脊髄損傷者にとって車いすは重要な福祉機器である。車いすの選定、適合は理学療法士の重要な役割である。適合には身体能力、体格、生活環境などさまざまな要素を考慮するが、退院後の使用状況は分からないことも多い。脊髄損傷者の中には車いすからの転倒・転落により外傷を受け、長期入院を強いられる人もいる。過去、車いす仕様と安定性についての報告はあるが、脊髄損傷者の車いす仕様と転倒の実際に関して、国内の報告は見当たらない。そこで今回、実生活における車いす転倒・転落経験の有無に車いす仕様がどのように影響しているかについて検討した。
【方法】
車いすを使用している脊髄損傷者30名(平均年齢41.0±14.0歳、男性27名、女性3名)に対し、聞き取り調査および車いす仕様の計測を行った。対象は在宅もしくは施設生活者であった。聞き取り調査は脊髄損傷レベル、車いす転倒・転落経験(移乗、スポーツ時は除く)について行った。各被験者の車いす仕様について、機種、車いすのシート前座高、後座高、バックサポート高、ホイルベース、車軸位置、地上最低高(フットサポート高)、キャスタ径、転倒防止装置の有無について計測および記録をした。座面傾斜角はシート前座高と後座高、ホイルベース、車軸位置から導き出した。
車いす転倒・転落の有無で2群に分け、車いす寸法について対応のないt検定を行った。車いすの機種(モジュラー式とオーダーメイド式)、転倒防止装置(有無)、キャスタ径(4インチ以下と5インチ以上)それぞれについて車いす転倒転落の有無とのχ2独立性の検定を行った。統計にはSPSS 16.0 Jを用い有意水準を5%とした。
【説明と同意】
神奈川リハビリテーション病院倫理委員会の承認を受け、紙面と口頭により対象者の同意を得て実施した。
【結果】
頸髄損傷者20名、胸腰髄損傷者10名であった。前方転落経験者は19名(頸損11名、胸腰損8名)、後方転倒経験者は15名(頸損9名、胸腰損6名)であった。機種はモジュラー式26台、オーダーメイド式4台であった。機種において前方転落、後方転倒共に経験あり群と経験なし群の有意差は見られなかった。転倒防止装置の有無と後方転倒の経験の有無には有意に関連があった。キャスタと前方転落について有意な関連は認めなかった。車いす寸法と前方転落において、転落経験あり群のホイルベースは、経験なし群のものよりホイルベースが有意に短かった。転倒・転落あり群となし群の間でその他の車いす寸法に有意な差は認めなかった。
【考察】
機種がモジュラー式であるかオーダーメイド式であるかは転倒・転落と関連がなかった。
後方転倒の有無と車いす寸法に関しては有意な差はなかった。B.Engströmによると車いすと人の質量中心が高く車軸位置が近い状態や、シートユニットの後傾した車いすでは後方転倒しやすいので注意が必要であるとしている。今回の結果と合わせて考えると、車いす仕様の違いが安定性について影響を及ぼすが、実際に転倒するかどうかは車いす仕様のみに依存するわけではないことが分かる。また、対象者の車いすはすでに適合の過程を踏んでおり、大きな不適合がないゆえに転倒の有無に影響しなかったとも考えられる。
転倒防止装置の有無は後方転倒に関係し、後方転倒を予防するうえで有効であることが確認された。ただし、転倒防止装置があった状態でも設定状況や場面においては後方転倒している例もあり、過信は禁物である。
前方転落経験あり群の車いすは、ホイルベースが有意に短かった。前方転落する際の多くは障害物にキャスタなどが止められ、体幹が前倒れするために車いすと人の質量中心が前方に移動し支持基底面から外れることで起こる。実際の前方転落においてもホイルベースは支持基底面の広さとして安定性に影響していたと考える。キャスタ径についてはいずれも3インチから5インチであった。kirbyらのキャスタ径と車いす安定性の研究では8インチ以下の直径では動的な安定性に差が少ない事が示されている。今研究の対象者の車いすキャスタ径はいずれも小径であったため転落に有意な差はなかったと考える。前方転落の対策として、体幹ベルトの装着等が考えられるが、ベルト装着し車いすごと前方に転落したケースもあり、今後検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
国内において脊髄損傷者の車いす転倒・転落に関する詳細な報告はない。車いす適合に関わる理学療法士にとって、この結果は脊髄損傷者の車いすの安全確保上、重要な示唆を与えている。
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© 2011 日本理学療法士協会
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