理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-038
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口述発表(特別・フリーセッション)
脳卒中片麻痺患者の麻痺側股関節内転筋と外転筋の動的バランスにおける機能的役割について
関 裕也関 貴子野上 雄
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抄録

【目的】我々は第45回日本理学療法学術大会にて、脳卒中片麻痺の麻痺側下肢筋力の指標として、大腿四頭筋よりも股関節内転筋および外転筋の方が適していることを報告した。しかし、それらが片麻痺の能力とどのように関連しているのかという機能的な役割についてまで言及するに至らなかった。そこで今回、麻痺側股関節内転筋・外転筋(比較のために大腿四頭筋も含む)と各種動的バランステストとの相関を求め、動的バランスにおける麻痺側股関節内転筋・外転筋の機能的役割について検討した。
【方法】対象は、支持なし立位保持が可能で、歩行能力が監視レベル以上の脳卒中片麻痺患者20名(男性12名、女性8名、平均年齢62.3±8.4歳、平均罹患期間69.6±52.7ヶ月)である。麻痺側下肢の筋力測定は、ハンドヘルドダイナモメーター(μTasF-1:アニマ社製)を用いて行った。対象筋群は、大腿四頭筋、股関節内転筋・外転筋とした。測定は、固定ベルトを使用し、最大努力の等尺性収縮を5秒間行わせた。1回の練習後、30秒以上の間隔をあけ2回測定し、最大値を採用した。そして得られた値(N)に、関節からセンサーまでの距離(m)を乗じてトルク値を求め、さらにデータを標準化するためにトルク値を対象者の体重(kg)で除して筋力値(Nm/kg)とした。動的バランステスト項目はFunctional Reach Test(FRT)、Step test、さらに重心動揺計(Kenz-stabilo 101:スズケン製)を用いたCross testを採用した。FRTはDuncanらの方法に準じて行った。Step testはHillらの方法に準じ、立位にて7.5cm台上に非麻痺側下肢を15秒間で上げ下ろしできる回数を計測した。そしてCross testの方法は、まず重心動揺計上で前方の目標点を注視し、かつ両足内縁間距離が10cmとなるよう立位(裸足)をとらせた。3秒間の安静立位の後、前・後・左・右の順で身体の重心を随意的に最大に移動させ、最後に再び3秒の安静立位をとり、全体で30秒間の試行とした。解析パラメーターは、前後方向移動範囲を足長で除したもの(%Y)、左右方向移動範囲を両足外縁間距離で除したもの(%X)、原点から麻痺側への移動範囲を両足外縁間距離で除したもの(%麻痺側X)、総軌跡長(LNG)、矩形面積(REC.AREA)、動揺平均中心変位Y軸(DEV OF MY)、動揺平均中心変位X軸(DEV OF MX)とした。統計学的な解析は、各筋力値と各動的バランステスト項目(FRT、Step test、Cross testの各パラメーター)の間で、Pearsonの相関係数検定を実施した。
【説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に沿って計画した。対象者には本研究についての説明を行い、同意を得た上で計測を行った。
【結果】股関節内転筋のみと相関が得られたのは%X、%麻痺側X、DEV OF MX(r=0.45、0.51、-0.49)であった。股関節外転筋のみと相関が得られたのはStep test(r=0.52)であった。股関節内転筋・外転筋の両者と相関が得られたのはFRT(r=0.58、0.63)であった。大腿四頭筋と相関が得られたものはなかった。
【考察】股関節内転筋のみと相関が得られた%X、%麻痺側X、DEV OF MXは、側方または麻痺側への重心移動量や、動的バランスにおける側方(主に非麻痺側)への重心位置の偏りを表している。したがって、麻痺側股関節内転筋力が強いほど、側方、特に麻痺側への重心移動量が増加し、かつ動的バランス時に非麻痺側に偏った重心位置が麻痺側方向へ修正され、正中に近づくと言える。つまり、麻痺側股関節内転筋は、立位における麻痺側への荷重制御に関与していると考えられる。股関節外転筋のみと相関が得られたStep testは、支持側の片脚支持の評価指標であり、本研究では麻痺側下肢を支持脚とした。よって、麻痺側股関節外転筋は、麻痺側片脚支持の安定性に関与していると考えられる。股関節内転筋・外転筋の両者と相関が得られたFRTは、股関節ストラテジーと関連が深いことが報告されている。大内転筋と中殿筋は股関節伸展の補助動筋でもあり、前方リーチ時に起こる骨盤前傾を制御する役割も有すると推測できる。
【理学療法学研究としての意義】本研究では、脳卒中片麻痺患者の麻痺側股関節内転筋および外転筋の動的バランスにおける機能的役割について検討した。その結果、麻痺側股関節内転筋は、立位における麻痺側への荷重制御に関与し、麻痺側股関節外転筋は、麻痺側片脚支持の安定性に関与していることが明らかとなった。また麻痺側股関節内転筋・外転筋は、側方への安定性に関与するばかりでなく、立位における骨盤前傾を制御する役割も有することが推測された。

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© 2011 日本理学療法士協会
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