抄録
【目的】
競技スポーツの低年齢化により成長期におけるスポーツ障害が注目されている。中でもOsgood-Schlatter病は,成長期の代表的な骨端症であり,成長期の男子に多く発症すると報告されている。本研究では,大腿および膝前面痛を有する成長期サッカー選手におけるしゃがみ込み動作時の骨盤の運動が生じるタイミングを明らかにすることを目的とし,大腿から膝関節前面に疼痛を認める群(以下 疼痛群)と認めない群(以下 非疼痛群)において、ビデオカメラを用いた二次元動作解析を用いて,立位時およびしゃがみ込み時の矢状面における各関節角度を測定した。
【方法】
中学1年生から中学3年生までのジュニアサッカーチームに所属する男子34名(平均年齢13.4±1.0歳,身長161.5±7.2cm,体重48.5±7.3kg)を対象とした。また,過去1年間に大腿から膝関節前面にかけて疼痛の既往が有る者を疼痛群17名(平均年齢13.3±1.0歳,身長160.4±8.5cm,体重47.6±7.6kg),同部位に疼痛の既往が無い者を非疼痛群17名(平均年齢13.5±1.0歳,身長162.6±5.8cm,体重49.3±7.1kg)に分類した。各被験者の第7頚椎(以下 C7)・第7胸椎(以下 Th7)・第12胸椎(以下 Th12)・第2仙椎(以下 S2)・腸骨稜・上前腸骨棘・大転子・膝外側関節裂隙(以下 膝裂隙)・腓骨外果・第5中足骨頭の体表面に15mmのマーカーを貼付し,自然立位からのしゃがみ込みを課題とし,連続3回実施した。なお,踵は離地せず,両上肢は前胸部で組むよう指示した。左側方よりデジタルビデオカメラで撮影し,画像解析ソフトImage‐Jを用いて上部胸椎角度・下部胸椎角度・腰椎角度・股関節角度・膝関節角度・足関節角度・骨盤傾斜角度・大腿後傾角度・下腿前傾角度を計測した。関節角度の定義は,上部胸椎角度はC7‐Th7‐Th12でなす角度,下部胸椎角度はTh7‐Th12‐腸骨稜でなす角度,腰椎角度はTh12‐腸骨稜‐S2でなす角度,股関節角度は腸骨稜‐大転子‐膝裂隙でなす角度,膝関節角度は大転子‐膝裂隙‐腓骨外果でなす角度,足関節角度は膝裂隙‐腓骨外果‐第5中足骨頭でなす角度,骨盤傾斜角度は後上腸骨棘‐上前腸骨棘‐床面との水平線でなす角度,大腿後傾角度は大転子‐膝裂隙‐床面との垂線でなす角度,下腿前傾角度は膝裂隙‐腓骨外果‐床面との垂線でなす角度とした。立位での各関節角度と,立位から左大腿部が床面と平行位になる範囲を,膝関節屈曲0°,30°,60°,90°の4期に分け,各期での関節角度および各相での関節角度の変化量について比較・検討した。なお,膝関節90°屈曲困難な被検者は最大膝屈曲位での角度を測定した。また,疼痛の有無に関して問診・アンケートにより調査した。統計学的検定には,疼痛群と非疼痛群の各期における関節角度,各相における関節角度の変化量の差の比較には対応の無いt検定を用いた。尚,有意水準はそれぞれ5%とし,統計解析にはSPSS Ver.16.0を用いた。
【説明と同意】
本研究の目的を全被験者,保護者,監督,トレーナーに対し,十分に説明し同意を得た上で行なった。また,本研究は総合病院回生病院倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
関節角度の比較では,膝関節屈曲30°における骨盤傾斜角度は疼痛群が有意に後傾位であった(p<0.05)。関節角度の変化量の比較では,膝関節屈曲0°から30°にて腰椎角度は疼痛群で有意に屈曲角度が増加していた(p<0.05)。また,骨盤傾斜角度は疼痛群で有意に前傾が少なかった(p<0.05)。膝関節屈曲30°から60°にて骨盤傾斜角度は疼痛群で有意に前傾が増加していた(p<0.05)。
【考察】
本研究では,疼痛群においてしゃがみ込み初期に骨盤前傾運動はほとんど生じず腰椎屈曲運動が著明であり,骨盤前傾運動よりも腰椎屈曲運動が先行して生じているという身体的特徴が明らかとなった。疼痛群では,しゃがみ込み初期に大腿直筋を過剰に働かせハムストリングスの収縮が不十分であり,腰椎屈曲運動にて体幹の前屈運動を代償していることが予測される。今回の結果より,大腿および膝前面痛を有する者に対し,しゃがみ込み初期の骨盤運動への着目が重要であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
成長期サッカー選手のしゃがみ込み動作における,骨盤の運動が生じるタイミングを把握し,治療・介入時に応用すること。