理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI2-033
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口述発表(一般)
成長期膝関節伸展機構障害に対するスクリーニングテストの有用性
粕山 達也川越 誠坂本 雅昭加藤 和夫
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キーワード: 障害予防, 機能評価, 協調性
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抄録
【目的】
オスグッド氏病をはじめとした成長期における膝関節伸展機構の障害は,オーバーユース症候群として捉えられており,スポーツ活動の休止と大腿四頭筋のストレッチを除いて効果的な治療についての報告は少ない.成長期のオーバーユース症候群に関しては,早期発見・早期治療が重要とされているが,身長の成長速度曲線の算出や大腿四頭筋・ハムストリングス等の筋柔軟性テストの測定が散見される程度であり,機能面に着目した評価方法はみられない.本研究の目的は,膝関節伸展機構障害に関する危険因子についてレビューし,機能面に着目した成長期膝関節伸展機構に対するスクリーニングテストの開発およびテストの有用性について検討することとした.
【方法】
対象は成長期の膝伸展機構に障害を有する障害群23名(男性16名,女性8名:平均年齢12.0±1.2歳)及びマッチング対照として下肢に整形外科的疾患を有さず,上肢の傷害にて理学療法を実施した対照群23名(平均年齢11.3±1.8歳)とした.障害群の内訳はオスグッド病16名,膝蓋骨大腿関節障害4名,膝蓋靭帯周囲炎2名,分裂膝蓋骨1名であり,各障害の診断は整形外科医により行った.先行研究における膝伸展機構障害の危険因子として,大腿四頭筋の柔軟性低下,関節弛緩性,足関節背屈制限,身体の後方重心化,下肢長増加による筋緊張亢進及び筋バランスの不均衡が挙げられており,これらの因子を参考に6項目のスクリーニングテストを開発した.評価項目はTest1フォームローラー上仰臥位にて片脚を股関節・膝関節90°屈曲位で保持不可能,Test2腹臥位にて膝関節自動屈曲で尻上がり現象有り,Test3踵を床につけてしゃがみ込み姿勢不可能,Test4スクワット動作で股関節・膝関節を協調的に屈曲90°位まで動作不可能,Test5踵を挙上し前足部荷重にて姿勢保持不可能,Test6膝関節反張+下腿外旋テスト陽性とした.全対象者に対してスクリーニングテストを実施し,陽性項目を求めた.群間での各項目の関連に対してカイ二乗検定を行い,障害群と対照群のオッズ比を算出した.また,陽性項目数による群分けを行い,最も高いオッズ比が得られる項目数を検討した.
【説明と同意】
本研究は後方視的研究にて,厚生労働省の定める疫学研究に関する倫理指針に基づき,病院長による許可を得て既存資料(診療記録)を使用した.
【結果】
各項目の障害群に対する対照群のオッズ比の結果は高い順からTest3で8.2倍,次いでTest2及びTest4が4.3倍,Test6が3.2倍であった.Test1及びTest5に関しては有意な関連は認めなかった.陽性項目数でのオッズ比の検討では,陽性項目が4項目以上と4項目未満で群分けを行った際に,障害群は対照群の8.2倍の発症率が算出され,最も高いオッズ比を示した.
【考察】
今回,開発したスクリーニングテストはTest1が体幹・股関節の安定性評価,Test2は大腿四頭筋の柔軟性と大腿前後面の筋バランス評価,Test3は足関節背屈可動域評価,Test4は体幹及び各下肢関節の協調性,Test5は足関節周囲筋力・片脚バランス評価,Test6膝関節の弛緩性評価となっている.Test1及びTest5に関しては,対照群においても体幹及び下肢関節の安定性について個人差が大きく,スクリーニングとしての使用については検討が必要と考えられた.一方で,柔軟性や協調性に関しては高いオッズ比を示し,成長期においては筋力的な問題よりも柔軟性や協調性に着目する必要があり,正しい運動学習の重要性が示される結果であった.
【理学療法学研究としての意義】
安定性,柔軟性,協調性,弛緩性を反映した簡便な評価として開発したが,4項目以上の陽性により膝関節伸展機構の傷害予測に有用な指標であることが示唆された.本研究は,成長期スポーツ傷害の早期発見・早期治療を実施する上で汎用性の高い評価であると考えられる.
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© 2011 日本理学療法士協会
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