理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-256
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ポスター発表(一般)
精神症状尺度と歩行自立度との関係
佐々木 紗映山中 裕司西入 洋一松崎 恭子岩井 一正畦地 良平仙波 浩幸平川 淳一
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抄録
【目的】当院は,身体障害を合併した症例を対象としたリハビリテーション科を併設している精神科病院である.身体・精神の両専門スタッフがチームとして患者の治療にあたっている.その中で,精神症状の把握のため,ドイツ語圏で編み出された精神科の記録と評価のシステムであるArbeitsgemeinschaft für Methodik und Dokumentation in der Psychiatrie (以下、AMDPシステム)を運用し,身体リハビリとの関連性について調査を続けている.東京都精神病院協会学術集会にて西入らが報告したように,我々は精神症状が身体リハの進度やアウトカムに影響を及ぼすことを経験してきた.前回大会にて筆者もFIMで評価される「しているADL」に精神症状の影響がより強く現れることを報告した.その中で,今回はリハビリの目標として設定されやすい歩行自立について焦点を当て,調査を行ったので,ここに報告する.

【方法】2008年3月から2010月7月末までにAMDPシステムにて評価を行った精神科患者75名について,基本情報である年齢,性別,精神科疾患名,身体疾患名,リハ実施期間,BerlinグループのAMDPシステム各症候群(妄想幻覚・うつ・躁・器質・敵意・自律神経・無力・強迫症候群)の獲得点数を調査し,歩行の自立・非自立にて群分けを行った.統計処理は,統計ソフトSPSSを用いて二元配置による分散分析及びt検定にて分析を行った.

【説明と同意】本研究は当院倫理委員会の審査を受けている.

【結果】自立群は31名で男性11名,女性20名,非自立群は44名で,男性16名,女性28名で,精神科診断名としては両群共に統合失調症が最も多かった.年齢は,自立群は48.2±15.9歳,非自立群は62.8±16.5歳でありt検定にてp<0.001で有意差が見られた.精神症状については,二元配置による分散分析を行った.AMDP器質症候群に注目すると,自立群は入院時4.9±10.5(%),退院時2.0±4.3(%),非自立群は入院時10.1±11.9(%),退院時8.0±12.3(%)であった.分散分析の結果は,群内でp=0.027,群間でp=0.016で有意差を認めた.AMDP無力症候群については,自立群は入院時9.7±8.9(%),退院時6.8±7.5(%),非自立群は入院時15.2±12.7(%),退院時11.7±11.9(%)であった.分散分析の結果は,群内でp=0.004,群間でp=0.027と有意差が見られた.その他の症候群には有意差は見られなかった.

【考察】当院では,精神科疾患を持った患者の身体合併症に対してアプローチをしているが,PTはその中でも歩行自立に絡む部分を担当することが多い.また,歩行ができるかどうかが,患者の退院先決定にも影響することもあり,その自立度は転帰にも大きく影響する.今回,分析を行ったことで,自立群は非自立群に比較して有意に若く,また,AMDP器質症候群・無力症候群が低い値を示していたことがわかった.AMDPについては,数値が低いほど,その症状が軽いことを示しているため,自立群に関しては非自立群よりも器質・無力症候群の2つの症状が有意に軽症であることを示している.器質症候群・無力症候群共に群内の有意差もあるため,精神科治療の過程の中で症状は改善していることも示している.つまり,両群共に精神科治療・身体治療を平行して行っていく中で症状の改善は得られるものの,両群間には症状の重さに大きな隔たりがあるということになる.これは,認知障害や意識障害が含まれる器質症候群,発動性低下や思考制止などが含まれる無力症候群が重症である場合,運動療法の実施が困難な場面が多いことや,リスク管理が難しい場面が増えることで,歩行の自立度が下がってしまう結果であると思われる.今回の結果は,歩行自立群と非自立群の特徴を示しているに留まり,予測因子として用いることは出来ないが,身体リハビリのゴール設定における1つの手がかりとして用いることが出来ると考えている.

【理学療法学研究としての意義】身体疾患に精神科疾患を合併している例は,理学療法の現場でも散見されるが,その対処方法や一般的に求められるゴールなど,理学療法士が参考に出来るデータは非常に少ない.一連の研究は,精神科疾患がある患者に対しての理学療法実施についての手がかりになると考えている.
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© 2011 日本理学療法士協会
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