理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-255
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ポスター発表(一般)
痛みと心理面の関連性
整形外科的疾患患者を対象としたPain Catastrophizing Scaleを用いた痛みの調査
田中 創岩坂 知治西川 英夫副島 義久森澤 佳三山田 実
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抄録
【目的】痛みを生成する因子は身体面・行動面・感情面など多岐におよび,必ずしも病態の程度だけを反映しているとは言い難いのが現状である.最近では,痛みの経験をネガティブにとらえる傾向である破局的思考の重要性が唱えられており,破局的思考の傾向が強いほど痛みが増強し,様々な障碍が生じることが指摘されている.そこで本研究では,運動器疾患にて当院で運動療法を行っている患者に対して,痛みの破局的思考を調査するために開発されたPain Catastrophizing Scale(以下,PCS)を用いて,主観的な痛みの訴えと心理面の関連性,それらに加えて,起算日からの日数の関連性等について調査した.

【方法】運動器疾患にて当院で運動療法を行っている患者138名(男性:28名,女性:84名 平均年齢:60.4歳)に対して記述式のアンケートを実施した.実施は運動療法前とし,その項目は以下のものとした.性別,年齢,主病名,起算日からの日数,Visual Analog Scale(以下,VAS),PCS(13項目).PCSはSullivanらによって作成された原版を,松岡らが日本語版に翻訳したものを使用した.PCSは痛みに対する破局的思考を測定する尺度で,13項目の質問形式からなり,そこから更に「反すう」「拡大視」「無力感」の3つの下位尺度に分類される.「反すう」「拡大視」「無力感」はそれぞれ,痛みについて繰り返し考える傾向,痛み感覚の脅威性の評価,痛みに関する無力感の程度を反映するとされる.PCSの原版は高い信頼性と妥当性が確認されており,痛みに関する破局的思考を測定する尺度の中で近年最も使用されている尺度である.本研究では回答が得られた138名のうち,内容の不備等を除き,最終的に112名のアンケート結果を用いて統計解析を行った.

【説明と同意】対象者にはその趣旨を十分に説明した上で同意を得た.また,本研究は当院の倫理委員会による承認を得た上で実施した.

【結果】VASとPCS間においては13項目すべてにおいて相関関係が認められた(r=0.262~0.526 ,p<0.05).また,起算日からの日数にて,150日超の有無で群分けしたところ,問12のみ有意差を認めた(p=0.015).さらに,150日超の有無を従属変数に,年齢,性別,VAS,PCSの13項目を独立変数に投入したロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行ったところ,問12(痛みを弱めるために私にできることは何もない)のみが有意な関連要因として抽出された(p=0.018,オッズ比1.470).

【考察】本研究では,主観的な痛みの評価として用いられるVASとPCSの間では13項目すべてと相関関係が認められた.つまり,主観的な痛みの程度が強いほど,破局的思考も強いことが示された.PCSは13項目で測定され,そこから更に「反すう」「無力感」「拡大視」の3つの下位尺度に分類される.VASとの関係においては,これら下位尺度との明確な関連性は示されなかった.また,対象者を運動器疾患の算定上限日である150日超の有無で2群に分けたところ,下位尺度で無力感の中に分類される問12との関連性が認められた.問12は,「痛みを弱めるために私にできることは何もない」という内容であり,起算日からの日数が150日を超えている人ほど痛みに対してより無力感を感じていることが分かった.つまり,慢性的な痛みを抱えて150日以上通院している当院の運動療法対象患者では,痛みに対して自分自身での解決を図るというよりは,より他者依存の傾向が強いことが考えられた.これらは受傷前,もしくは受傷直後より痛みに対して破局的思考を強めている患者では,治療が算定上限日を超えて成されることを予測させる結果ともなった.今後,PCSを応用していくことで予後予測や痛みの改善に繋げていける可能性が示された.

【理学療法学研究としての意義】リハビリテーションにおける算定上限日数に関しては様々な論議がなされているものの,本研究の結果より身体面のみに着目したゴール設定だけではなく,患者の心理的因子を考慮する必要性が示唆された.また,痛みの程度を決定する因子は必ずしも構造や機能的因子だけでなく,心理的因子がそれらを修飾している可能性が示唆された.
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© 2011 日本理学療法士協会
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