抄録
【目的】
変形性膝関節症(以下、膝OA)に対する従来の膝サポーターの多くが、骨・関節の他動的な固定や圧迫によってサポート効果を図っている。しかし、このような膝サポーターでは、対象者の機能的な改善を期待することは難しい。今回、我々は膝OAに対してストラップ機能と付属パッド効果により、疼痛緩和と、膝関節周囲筋である大内転筋、ハムストリングス、下腿三頭筋などの本来の筋機能を促し、動的安定性を高めることに特化した新しいコンセプトの膝サポーター(以下、自由膝)を開発し、臨床応用したのでここに報告する。
【方法】
2006年12月11日~2010年10月6日の間に当院を受診し、膝OAと診断され、本研究の参加に同意が得られた100名(男性17名、女性83名;68.3±10.5歳)の127肢(男性19肢、女性108肢)を対象とした。対象者のX-P重症度(Kellgren-Lawrence分類)は、Grade1が7肢、Grade2が27肢、Grade3が36肢、Grade4が57肢であり、型分類は内側型105肢(82.7%)、内側・膝蓋型9肢(7.1%)、外側型12肢(9.5%)、外側・膝蓋型1肢(0.8%)であった。全例に対して自由膝装着前後のVisual Analog Scale(以下、VAS)による疼痛評価と、自由記述によるアンケートを実施した。さらに、装着開始から一定期間(平均3.5ヶ月;105.0±42.8日)を経過した50名(男性8名、女性42名)、68肢に対して、ADL機能評価であるWOMAC(Western Ontario and McMaster Universities OA Index)に準ずる日本語版膝機能評価法(以下、準WOMAC)を自記式で実施した。また、Timed Up and Go test (以下、TUG)を、自由膝なし(以下、A群)、自由膝のパッドとストラップなし(以下、B群)、自由膝あり(以下、C群)の3群にて所要時間を比較し、要した歩数と計測時のVASも記録した。統計学的手法は、VAS・準WOMACでは装着前後と、TUGでは群間同士をPaired t検定にて比較検討を行い、有意水準は5%とした。VASでは各Gradeで一元配列分散分析を行い群間の差を検討した。TUGではさらに、Bonferroni法にて多重比較検定を行った。
【説明と同意】
研究参加者に対しては、口頭にて本研究の目的と方法を事前に十分な説明を行い、研究の実施にあたっては、当院倫理委員会の承認を得て倫理規定に従って行った。
【結果】
100名に対してのVASは装着前6.9±2.8、装着後1.5±1.4であり有意に疼痛が低下し(p<0.01)、各Grade間での比較では装着前群(p=0.79)、装着後群(p=0.33)で重症度間には有意差は無かった。アンケート結果では、「痛み軽減(66名)、痛み消失(34名)」であり、全例に疼痛の軽減がみられた。また、「足が軽くなった(53名)、スムーズに歩ける(49名)、階段昇降が楽にできる(43名)」というポジティブな記載が多くみられた。一方、少数ではあるが、「装着が難しそう(1名)、分厚く見えてズボンに響きそう(1名)」というネガティブな記載がみられた。準WOMACでは装着前66.1±22.9点、装着後21.7±15.9点であり、有意に改善が認められた(p<0.01)。疼痛評価項目においても装着前25.3±6.4点、装着後9.6±5.5点と特に有意に改善が認められた(p<0.01)。TUGでは、A群:14.0±5.0秒・16.9±4.5歩、B群:13.3±4.8秒・16.7±4.4歩、C群:11.5±4.0秒・15.3±3.9歩で、所要時間・歩数ともにA群とB群では有意差は無かったのに対し(所要時間p=0.49、歩数p=0.78)、A群とC群(p<0.007)、B群とC群間(p<0.05)では有意な改善が認められた。TUGでのVASではA群5.1±3.3、B群4.3±3.1、C群1.4±1.7であり、A群とB群では有意差は無かったが(p=0.28)、A群とC群、そしてB群とC群間で有意差が認められた(p<0.01)。
【考察】
今回の結果では、自由膝によりOAのGradeに関係なく、疼痛軽減に加え、身体機能改善やADL活動範囲向上の効果がみられた。また、34名に疼痛の完全消失がみられたことは特筆に値する。これらは、自由膝が膝関節周囲筋の本来のもつ筋機能を効率よく促せた効果によるものと考える。また、自由膝は理学療法の進行とともに簡略化でき、やがてサポーター自体を外せる時がくることを期待するものである。従来のような“消極的な” 膝サポーターの使用ではなく、保存的治療の一手段として、神経・筋の機能を促通し、その効果を維持・改善するような “積極的な”膝サポーターの使用を意図するものである。
【理学療法学研究として意義】
膝OAに対する新しいコンセプトのサポーターを開発し、そのサポーターが劇的に疼痛を軽減させ、身体機能の改善やADL改善の可能性を見出すものであると示したことは、膝OAに対する積極的な保存的治療の一手段として理学療法の臨床において大いに意義あるものである。