抄録
【目的】変形性股関節症(変股症)に対する装具療法としてWISH型股関節装具(WISH型股装具)を作製した。WISH型股装具は、内転以外の運動が可能で、外転や荷重時にパッドが大転子を圧迫する。股関節は姿勢調節に関与していると報告がある。今回WISH型股装具の効果の検討を目的に、WISH型股装具装着における重心動揺の変化について、支持基底面を固定した状況における随意運動中のバランス機能検査であるcross testについて検討した。
【方法】2007年4月~2010年10月に変股症により、群馬大学医学部附属病院 整形外科を外来受診した女性患者19名を対象としcross testを施行した。cross test は、Ishikawaらの方法に従って、重心動揺計(アニマ社GRAVICORDER G-6100)上に両側踵部中心間距離を15cm開脚し、約4秒間の安静立位の後、前後右左の順で身体の重心を随意的に各方向に最大に移動させ、最後に約4秒間の安静立位をとり、サンプリング周期20msにて40秒間計測した。被検者には、動作中足底面が重心動揺計より離れないこと、体幹の前・後・側屈と股・膝関節の屈曲が生じないことを指示した。また足部は裸足、視覚条件は開眼とした。左右(X)方向と前後(Y)方向におけるそれぞれの最大振幅(XD、YD)を求めた。XD、YDそれぞれについて、装具の着脱における変化についてWilcoxonの符号付順位和検定を用い、装具装着後の経過についてMann WhitneyのU検定を用い、危険率5%未満を有意差ありとした。
【説明と同意】この臨床研究は群馬大学の臨床試験審査委員会(IRB)に承認され、対象者からは同意を得て測定した。
【結果】装具非装着時のXDは14.4±4.3cm、装具装着時のXDは14.9±4.3cmで、装具装着による有意な変化が認められた。装具非装着時のYDは12.3±2.4cm、装具装着時のYDは12.6±2.8cmで有意な変化はみられなかった。装具装着後の経過においては、装具装着における有意な変化はみられなかった。
【考察】本研究で左右方向への重心移動最大振幅であるXDにおいて有意な変化を認めた。しかし、前後方向への重心移動最大振幅であるYDにおいては、有意な変化を認めなかった。内外側方向の安定性を回復するためには股関節が主要な関節である。WISH型股装具は、左右方向のバランス機能の改善に有効であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】重心動揺検査における動的検査であるcross testにおいて、WISH型股装具は左右方向の運動に対し有効的に働くことが認められた。このことは股関節装具が生体に及ぼす影響を解明する一助となり、装具の有効的な使用に結びつくのではないかと考える。