論文ID: 2329
イヌワシAquila chrysaetosは、日本国内では個体数の減少と繁殖成功率の低下が顕著であり、絶滅の危機にある。そのため本研究では、繁殖を継続する生息地と消失した生息地を比較することで、イヌワシが繁殖を継続する生息環境の要因を全国スケールで評価した。まずイヌワシの知見を有する全国の鳥類関係者への聞き取り調査及び文献調査により、イヌワシが繁殖していた地点が含まれる全国標準地域メッシュ3次メッシュを36ヵ所集めた。次にGISを用いて、36ヵ所それぞれについて、採餌環境、営巣環境、人為的撹乱に着目した6つの生息地の指標を数値化した。その後、2010年以降の繁殖成功の有無を目的変数、6つの生息地指標を説明変数、地理的なグループをランダム効果として、一般化線形混合モデル(GLMM)を構築した。解析の結果、イヌワシの繁殖の継続と正の関係にあった指標は自然度の高い落葉広葉樹林面積、傾斜の大きさ、主要道路からの距離であり、負の関係にあった指標は林業活動であった。イヌワシの繁殖の継続には自然度の高い落葉広葉樹林や起伏の大きな地形の存在が重要であることが示唆された。したがって、特にこのような景観要素の維持に努めるとともに、これら地域での開発行為や繁殖妨害といった人為的撹乱を抑制する対策を検討する必要があるだろう。