理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI1-031
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口述発表(一般)
下肢挙上高及び挙上時間の相違が静脈還流速度に与える影響
徳田 裕荻田 讓米澤 徹哉
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抄録

【目的】
静脈性浮腫及び深部静脈血栓症(DVT)予防に対する理学療法として運動療法,物理療法,間欠的空気圧迫法,弾性包帯,下肢挙上等を併用することが多い.その中でも,下肢挙上に関するDose(高さ,時間)についての報告は30cm程度が静脈性浮腫の改善に有効との報告しか見受けられない.そこで今回,下肢挙上高及び挙上時間の違いが静脈還流速度に与える影響を検討し,下肢挙上のDoseを明確にすることを目的とした.

【方法】
対象は疾患の既往がない健常成人56名(男31名,女25名,平均年齢21.2±2.4歳,平均体重59.3±9.6kg)を無作為に下肢挙上高15cm群(15cm群)に19名,30cm群に20名,45cm群に17名振り分けた.
方法は,室温約24°C,湿度約50%の条件下で,10分間の馴化時間の後に,背臥位にて左下肢の膝窩静脈の血流速度をデジタルカラー超音波診断装置,プローブはリニア探触子(7.5MHz)を用いパルスドプラ法にて測定した.次に,左下肢を15cm,30cm,45cmの台へそれぞれ挙上させ5,10,15,20分後に同様の方法にて血流速度を測定した.測定項目は収縮期最高血流速度(PSV)とした.統計処理は,各挙上高群の経時的PSVの比較には一元配置分散分析を用い,有意差を認めた場合,多重比較検定には挙上前との比較を目的にTukey-Kramer法を用いた.更に,有意差を認めた各挙上高・挙上時間の群間の比較には挙上前を基準とした変化率を算出し一元配置分散分析で有意差を認めた場合,同時間の比較にMann-whitneyのU検定を用いた.有意水準は危険率5%未満とした.

【説明と同意】
全ての対象者には研究の目的,方法,期待される効果,危険性,個人情報保護について口頭および書面にて説明し,研究参加の同意を得た.

【結果】
1.各挙上高における経時的PSVの比較
Tukey-Kramer法による多重比較検定の結果,15cm群では挙上前と比べ10分後,15分後,20分後に有意な増加を認めた(p<0.05).30cm群では挙上前と比べ5分後,10分後,15分後に有意な増加を認めた(p<0.05).45cm群では挙上前と比べ5分後に有意な増加を認めた(p<0.05).
2.各挙上高・挙上時間の群間比較
Mann-whitneyのU検定の結果,30cm:15分に比べ15cm:15分は有意に高値を示した(p<0.05).15cm:10分に比べ30cm:10分は有意に高値を示した(p<0.01).30cm:5分に比べ45cm:5分では増加傾向を示した.

【考察】
静脈血流速の検討にはPSVが多用されており有用性があると考え,本研究の測定項目とした.
重力による血行動態への影響として血液は血管内で部位により位置エネルギーの差を生じ垂直方向へ圧力勾配を持つ.これを静水圧と呼び,1cmにつき0.7mmHgの圧変化がある.下肢挙上位では高さに応じて静水圧を受け,動静脈の陰圧化が生じ,これにより静脈毛細血管の再吸収及び動脈毛細血管での濾過の抑制が生じる.
結果より,挙上高と挙上時間に関するDoseでは,15cm:20分,15cm:15分,30cm:10分,45cm:5分が静脈還流速度を速めることが明確になった.従って下肢を挙上する場合には,Dose(高さ,時間)を検討し実施する必要性があると考えられる.また挙上高45cm群においては,施行中痺れを訴えた者がいて静脈還流速度も低下傾向にあったため,動脈に虚血を生じさせるDoseとなるリスクも考えなければいけないことも示唆された.

【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,静脈還流速度を促進する下肢挙上のDose(高さ:時間)が明確となり,理学療法臨床場面での浮腫治療及びDVT予防における下肢挙上に関する一つの目安を示すことができたと考えられる.

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© 2011 日本理学療法士協会
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