理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-358
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ポスター発表(一般)
心臓外科手術後筋力低下と術後高血糖および糖尿病罹患の関連について
上坂 建太岩津 弘太郎作井 大介神谷 訓康出口 広介高橋 哲也飯田 淳伊藤 秀裕佐地 嘉章中根 英策植山 浩二野原 隆司
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抄録
【目的】一般的に心臓外科手術後(術後)には筋力低下が認められ、術後の円滑な日常生活動作能力獲得の妨げとなっている。最近、術後の筋力低下の一要因として、炎症性サイトカインの放出に伴う異化作用亢進が指摘されている。また、炎症性サイトカインの放出は術後の高血糖によって促進されることが報告されている。これらのことは、術後の高血糖が筋力低下と関連する可能性を示唆している。さらに、術後の高血糖は糖尿病患者で起こりやすいことから、術後の筋力低下は糖尿病患者でより起こりやすいことが推測される。しかしながら、術後筋力低下と術後高血糖および糖尿病罹患の関係を検討した報告はなく、その関連は明らかではない。そこで、本研究では術後の筋力低下に対する術後高血糖および手術前の糖尿病罹患の関与を検討することとした。
【方法】2009年1月以降、当院で待機的に心臓外科手術を受けた31例(男性22例、女性9例、平均年齢68.4±9.4歳)を対象とした。術前患者背景、手術状況、術後経過などの情報は診療記録より後方視的に調査した。術前患者背景は、糖尿病などの併存疾患の有無、術前膝伸展筋力、Body Mass Index (BMI)、ADL (Barthel Index)、心エコー所見(左室駆出分画、左房径、左室拡張末期径、左室収縮末期径)、心不全重症度(New York Heart Association;NYHA分類、脳性ナトリウム利尿ペプチド)、血液生化学データ(血清クレアチニン値、血清尿素窒素値、ヘモグロビン値など)とした。手術状況は、手術様式、バイパス本数、手術時間、麻酔時間、大動脈遮断時間、人工心肺時間、出血量、水分のトータルバランスとした。術後経過は、抜管までの時間、術後空腹時血糖値、端座位開始日数、立位開始日数、歩行開始日数、術後膝伸展筋力とした。術後空腹時血糖値は手術当日から7日目までの平均値を採用した。術後膝伸展筋力は、バイパスグラフト非採取側もしくは、術前に高値を示した側を採用した。術後膝伸展筋力の術前値に対する割合と術後空腹時血糖値との関連はPearsonの積率相関係数を用いて検討した。また、術前糖尿病罹患症例(DM群)と術前糖尿病罹患のない症例(非DM群)で、術前後の膝伸展筋力、術前患者背景、手術状況、術後経過をT検定、カイ二乗検定を用いて比較検討した。統計学的解析には、SPSS15.0を使用し有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】今回の調査は診療記録より後方視的に行ったもので、診療記録のデータの使用については入院時または手術前に患者および家族よりすべて同意を得ている。
【結果】術後膝伸展筋力の術前値に対する割合と術後空腹時血糖値は負の相関関係を示した(r=-0.41)。そして、術後の膝伸展筋力はDM群(14名)で有意に低下した(術前1.4±0.5N・m/kg、術後1.2±0.4N・m/kg)が、非DM群(17名)では変化を認めなかった(術前1.3±0.3N・m/kg、術後1.3±0.3N・m/kg)。DM群と非DM群で有意な差が認められたものは、術前患者背景では、左室駆出分画(DM群49.6±14.0%、非DM群59.8±9.7%)、ヘモグロビン(DM群13.1±1.4mg/dL、非DM群11.8±1.5mg/dL)、HbA1C(DM群6.8±0.9%、非DM群5.3±0.8%)、術前MIの既往(DM群42%、非DM群5.8%)であった。術後経過では、術後空腹時血糖値(DM群169.2±22.7mg/dL、非DM群138.6±19.5mg/dL)、歩行開始日(DM群3.3±0.8日、非DM群5.1±2.8日)であった。
【考察】術後膝伸展筋力の術前値に対する割合と術後空腹時血糖値が負の相関を示したことより、術後筋力低下に対する術後高血糖の関与が示された。さらに、DM群で歩行開始日が早いにも関らず術後に筋力が低下しており、術後空腹時血糖値はDM群でより高値であった。術後の高血糖と炎症性サイトカインの関連が指摘されていることからも、術後の筋力低下は術後のディコンディショニングはもとより、術後高血糖が関与している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】これまで術後高血糖やDMの罹患は、術後筋力低下の要因として注目されてこなかった。本研究の結果は、心臓外科術後の理学療法を施行するにあたり、術後高血糖およびDMの罹患を解釈するうえで新たな視点を提供するものと思われる。
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© 2011 日本理学療法士協会
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