抄録
【目的】急性期・回復期・維持期の各期の脳血管障害に合併する肺炎発症要因を示すデータが国内では少なく、それに伴うリハビリテーション介入(以下、リハ介入)の在り方を検証しているものも少ない。今回、多施設間共同で脳血管障害と肺炎との関係を後方視的に調査し、肺炎罹患群と未罹患群との特徴を検討し、さらに肺炎発症の規定因子について検討した。
【方法】対象はH20年4~6月の間に脳血管障害の診断で新規入院した急性期患者384例(平均年齢73.0±11.1歳)、回復期患者175例(71.9±11.0歳)、維持期患者54例(83.9±10.9歳)。調査項目は診療録より収集し、原疾患、肺炎の有無など19項目である。2群間の各項目をX(2)検定、Mann-WhitneyのU検定、Kruskal Wallis検定を行い、さらにロジスティック回帰分析にて肺炎発症要因を検討した(有意水準は5%未満)。
【説明と同意】各施設に研究報告書を送付し、倫理委員会等にて個人が特定されないことを条件に同意を得た。
【結果】肺炎罹患者は急性期384例中21例(5.5%)、回復期175例中13例(7.4%)、維持期54例中12例(21.8%)であった。原疾患別では各期において罹患群・未罹患群ともに脳梗塞が半数以上を占めていた。FIMでは(罹患群vs未罹患群)急性期31.0±22.2点vs59.9±11.0点(P<.0001)、回復期43.1±25.2点vs70.8±33.7点(P<0.01)、維持期罹患群24.6±12.8点vs40.7±29.6点であった(P<0.05)。さらに各期罹患群・未罹患群において生活範囲を車椅子・歩行群とベッド上群とに分類し比較検討した結果、急性期・回復期の肺炎罹患群において臥床状態の方が有意に多かった(急性期P<0.05 回復期P<.001)。Alb値においても急性期・回復期の肺炎群において有意に低い結果であった(急性期P<0.01 回復期P<.000)。嚥下障害の有無に関しては急性期罹患群81%、回復期罹患群76.9%、維持期罹患群100%嚥下障害を有していた(急性期P<0.01、回復期・維持期P<0.05)。食事摂取方法は急性期・回復期罹患群において経口摂取が有意に少なかった(急性期P<.0001 回復期P<0.01)。意識状態(Japan coma scale)・上肢Brunnstrom stageは急性期未罹患群において意識レベルやステージが高い傾向にあった(P<.000、P<0.05)。リハ平均単位数では(罹患群vs未罹患群)急性期2.4単位/日vs2.8単位/日、回復期5.0単位/日vs5.5単位/日、維持期1.6単位/日vs1.7単位/日であった。転帰について罹患群の死亡退院は急性期10%、回復期8.3%、維持期41.7%であった。
【考察】星らの急性期を対象とした先行研究では1.臥床時間の延長2.低栄養3.高年齢4.食事の自力摂取不可5.嚥下障害6.身体活動能力の低さ7.呼吸器疾患の既往8.意識レベルの低さ9.上肢Brunnstrom stageが肺合併症を発症しやすい傾向だと挙げている。今回の研究においても急性期群においてはほぼ同様の結果が得られた。臥床時間の延長や活動量の低下などにより換気量の低下を招き、嚥下障害の合併も伴い肺炎発症につながる可能性が考えられた。ただし肺炎発症率が5%程度であった結果から、急性期病院おける呼吸管理体制や人員配置などのスタッフのマンパワー充実などが関与していると思われた。回復期においては急性期同様に低栄養や活動量の低さ、嚥下障害が肺炎群の傾向として見られたが、入院時より活動量が高いことも特徴的であり、加えて平均リハ単位数が3期の中で最も多いことも肺炎予防の一因として考えられた。維持期においては3期の中で肺炎発症率が最も高かった。肺炎群の特徴としてはFIMの低得点・嚥下障害が傾向として挙げられたが、それに加えて転帰においては死亡退院が最も多かったことからも本研究における肺炎発症率と死亡退院率の高さは加齢に伴う廃用の進行もあり、身体機能や栄養状態の低下が重度化を招くことを示唆していると思われた。今回、回帰分析からは各期とも特徴的な規定因子は認められなかったが、各期で共通していることは身体機能の低下や嚥下障害が肺炎発症に関与しており今後の脳血管障害例の肺炎合併予防としてリハ介入時の評価・アプローチの要点として捉えることができると思われる。
【理学療法学研究としての意義】脳血管障害例のリハ介入においては疾患そのもののアプローチと同時に肺炎などの肺合併症のリスクを考え、今回の結果を元に介入の在り方を検証し、臨床に応用させていく必要がある。