抄録
【目的】回復期リハビリテーション病棟(以下リハ病棟)の主たる目的のひとつは「入院患者に在宅生活を再びもたらすこと」であり、実際に本邦の現状では、高い在宅復帰率の達成がリハ病棟に求められている。在宅復帰に影響を与える因子については、リハ病棟全体もしくは脳卒中患者を対象とした報告は数多くなされているが、廃用症候群患者を対象として同様の検討を行った報告はほとんどみられない。よって、今回我々は、いかなる因子が、リハ病棟に入院した廃用症候群患者の在宅復帰に影響を与えているのかを明らかにすることを試みた。
【方法】対象は、2009年4月1日から2010年10月25日の間に当院リハ病棟に3週間以上入院、最終的に退院にまでいたった廃用症候群患者(平均年齢:79 ± 11歳。性別:男性22人、女性38人。原因疾患:内科系疾患38名、整形外科系疾患20名、外科系疾患2名。入院中に急性期病院または急性期病床に転出した患者あるいは死亡した患者は含まれていない)60名とした。これら対象を、自宅退院者(在宅復帰できた患者)と施設入所者・他病院転院者との2群に大別した。そして、2群間で11の入院時項目(年齢、入院日数、入院時バーセル指数(以下BI)、入院時Ability for Basic Movement Scale(以下、ABMS)、入院時歩行自立の可否、入院時移乗自立の可否、原因疾患、認知症の有無、同居者の有無、家族の在宅復帰への希望の有無、経管栄養の有無)および4つの退院時項目(退院時BI、退院時ABMS、退院時歩行自立の可否、退院時移乗自立の可否)のそれぞれを、T検定、Mann-Whitney U検定、χ2検定を用いた単変量解析で比較検討した。次いで、多変量解析として、自宅退院か否かを目的変数としたうえで、入院時項目の中から有意差がみられたものを中心に説明変数を設定、ロジスティック回帰分析を実施した。なお、目的変数の投入方法としては、変数増加法(尤度比)を選択した。統計解析にはPASW17.0を使用し、有意水準は5%とした。
【説明と同意】後方視的研究であるため、全て匿名化された既存データのみで検討を行った。
【結果】単変量解析の結果として、入院時項目については、認知症の無い患者の割合(P<0.05)、家族の在宅復帰への希望が有る患者の割合(P<0.01)が、施設入所者・他病院転院者と比し自宅退院者群で有意に高くなっていた。退院時項目については、ABMS(P<0.05)、BI(P<0.05)が自宅退院群で有意に高値となっており、移乗自立者の割合(P<0.05)も自宅退院群で有意に高くなっていた。ロジスティック回帰分析では、説明変数として入院時項目の中から、入院時BI、入院時ABMS、認知症の有無、同居者の有無、家族の在宅復帰への希望の有無、経管栄養の有無、原因疾患の7項目を投入したところ、自宅退院に影響を及ぼす因子として、家族の在宅復帰の希望の有無(オッズ比:0.08、95%信頼区間:0.02-0.32、P<0.01)と経管栄養の有無(オッズ比:0.12、95%信頼区間:0.02-0.79、P<0.03)が抽出された。
【考察】在宅復帰の可否は、ADL能力の向上のみならず、家族背景、家屋構造など社会的な要因が影響を及ぼすことが指摘されている。廃用症候群患者を対象とした今回の結果でも、リハ病棟全体または脳卒中患者に対する検討と同様に、退院時のADL能力以外に入院時に確認される社会的因子が在宅復帰に影響を及ぼしていることが示唆された。これらより、廃用症候群患者においても在宅復帰を達成するためには、機能の改善、ADL能力の改善を目指すだけではなく、社会的背景を考慮していく必要があると考えられる。
【理学療法研究としての意義】現在、リハ病棟では成果主義が導入されており、在宅復帰率は重要な指標となっている。リハ病棟では、在宅復帰を目指し患者の機能回復、ADL能力を向上させるべくリハビリテーションを実施している。そのような状況の中、リハ病棟に入院する患者の中で多くを占める廃用症候群患者における自宅退院の要因を把握することは重要であると考える。今回の検討では、廃用症候群患者では、機能の改善のみならず、入院時の社会的因子の内容も自宅退院の達成に大きな影響を与えていることが明らかとなった。今後は、本研究の結果をふまえて、機能回復をはかりADL能力を向上させるのみならず、社会的な要因にも配慮していくことで、より多くの廃用症候群患者を自宅退院につなげていくことができるものと期待される。