理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-090
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口述発表(特別・フリーセッション)
健常成人男性における非支持上肢運動と支持上肢運動の気道閉塞圧の比較
藍原 章子解良 武士玉利 光太郎横山 茂樹元田 弘敏
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抄録
【目的】
呼吸不全患者は整髪動作などの負荷量が軽い上肢の活動でも呼吸困難を訴え,日常生活動作(ADL)は制限される.そのため,呼吸リハビリテーションでは上肢運動能力の評価も重要であり,上肢に対しての運動負荷試験も行われている.上肢の運動形態には上肢エルゴメーター駆動のように上肢が支えられた状態で活動する支持上肢運動と棒体操のように空間で活動する非支持上肢運動がある.これまで前者の方法による運動負荷試験が一般的に行われてきたが,ADLでは後者の運動形態の方が多いため,近年は後者の運動負荷試験も開発されている.しかしながらこの2種類の運動形態についての呼吸困難感の差異は十分に検討されていない.本研究では,2種類の運動形態について呼吸困難感と関連がある気道閉塞圧(P0.1)とΔV(DOT)E/ΔP0.1を指標として同等の酸素摂取量条件下で比較した.
【方法】
健常成人男性21名(平均年齢41.2±15.8歳)を本研究の対象とした.
被験者を安静においた後,重錘を付けた棒を両手で把持し上肢挙上運動による非支持上肢運動を実施した.重錘は3段階の漸増負荷(Stage1~3)を設定し,各3分間の運動を連続して行った.次に非支持上肢運動の酸素摂取量の値を目標値として上肢エルゴメーターの負荷調節を行い3段階の支持上肢運動を行った.
測定には気道閉塞装置と差圧トランスデューサーを用い,呼気終末時に吸気口を閉塞し,気道内圧が陽圧から陰圧に転じてから0.1秒後の口腔内圧をP0.1値とした.またと分時換気量(V(DOT)E)の測定には呼気ガス分析器を用い,各Stage最後の1分間の平均値を採用した.さらに安静時から各Stageの変化量をCEとΔP0.1とし,ΔV(DOT)E/ΔP0.1を算出した.
統計処理は酸素摂取量とP0.1,V(DOT)EはStageと運動形態を要因とした反復測定による二元配置分散分析を行い,Post hoc検定としてStage間の比較にBonferroni法を,運動形態間の比較には対応のあるt検定を用いた.ΔV(DOT)E/ΔP0.1における各条件間の差の比較については正規性を認めなかったためFriedman検定を行った.統計処理には統計ソフトSPSS ver 16.0を使用した.
【説明と同意】
研究に際してすべての被験者に本研究の目的,方法,安全性などについて書面および口頭による説明と署名によるインフォームド・コンセントを得た.
【結果】
生理学的運動強度の指標である各Stageの酸素摂取量は,二元配置分散分析の結果,運動形態とStage間に交互作用は認められず(p=0.455),また運動形態による有意差も認めなかった(p=0.911).P0.1は運動形態とStage間に交互作用を認め(p<0.001) ,また運動形態とStage において有意な差を認めた(p<0.001).さらにPost hoc検定の結果,P0.1はStage2,3において非支持上肢運動の方が支持上肢運動よりも有意に高値を示した(p<0.001).V(DOT)EはP0.1と同様の傾向を示し,Stage2,3において非支持上肢運動の方が有意に高い結果となった.ΔV(DOT)E/ΔP0.1は各条件間で有意な差は認められなかった(p=0.400).
【考察】
今回の研究では, 酸素摂取量が同等であるにも関わらずP0.1はStage2,3で非支持上肢運動の方が有意に高い結果となった.これは相互的な運動を繰り返す上肢エルゴメーター駆動のような支持上肢運動と異なり,非支持上肢運動の場合は上肢を空間に保持するために肩甲帯周囲の特定の筋が持続して活動するため,これらの筋が無酸素性エネルギー代謝に動員されやすく乳酸の緩衝による二酸化炭素発生の増加によって呼吸促進が起こったものと考えられた.一方で,ΔV(DOT)E/ΔP0.1では有意差を認めなかったが,これは健常者では運動条件が異なっても呼吸運動出力に見合った換気量が得られたためと考えられた.胸郭コンプライアンスの低下や気道閉塞現象などを呈する呼吸不全患者では十分な換気量が得られず,呼吸運動出力が高い非支持上肢運動の方が呼吸困難感を惹起しやすいことが予測されるため,今後は呼吸不全患者を対象とした検証が必要と考えられる.
【理学療法学研究としての意義】
本研究により2つの運動形態の間に気道閉塞圧の違いが示された.このことから,呼吸不全患者等では上肢の運動形態によって呼吸循環反応だけでなく呼吸困難感も異なると考えられ,特に上肢の活動を伴うADL指導を行うリハビリテーションにおいては選択的に非支持上肢運動を用いた上肢機能検査を行う必要性があると考えられる.
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© 2011 日本理学療法士協会
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