理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OS3-054
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専門領域別口述発表
糖尿病の血糖コントロール状態と末梢性顔面神経麻痺回復の関係について
高山 裕太郎栗原 密鶴見 良久木村 紫宮原 峰則石間 照子山下 圭悟松下 大二朗小藤 直子来間 弘展
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抄録
【目的】糖尿病(以下、DM)は末梢性顔面神経麻痺(以下、顔面神経麻痺)の発症因子の1つであると考えられている。これまでDMの有無による顔面神経麻痺の予後検討はあるものの、DMの血糖コントロール状態と顔面神経麻痺重症度の検討はほとんどなされていない。そこで今回、血糖コントロール状態が顔面神経麻痺の重症度や予後に及ぼす影響について検討したので報告する。
【方法】2005年9月から2010年9月までに耳鼻咽喉科にて顔面神経麻痺と診断され、当院で理学療法を実施した240例のうち、40歳未満・Hunt症候群・再発例・周産期発症例を除き、6ヶ月間経過を追えた症例と6ヶ月以内に40点法(柳原法)にて36点以上で治療を終了した118例を対象とした。まず糖尿病診断基準委員会報告に基づき、発症時のHbA1cまたは2回の異なる測定での空腹時血糖値(以下、血糖値)から、非DM群(HbA1c5.8%未満または血糖値110mg/dl未満)、境界群(HbA1c5.8%以上6.5%未満または血糖値110mg/dl以上130mg/dl未満)、軽症群(HbA1c6.5%以上8.0%未満または血糖値130mg/dl以上160mg/dl未満)、重症群(HbA1c8.0%以上または血糖値160mg/dl以上)の4群に分類した。なお、理学療法は発症後2週間以内に開始し、同一の治療内容を実施している。発症時の重症度は、発症後最低点数を指標とした。また治癒状態の判定として、日本顔面神経研究会治癒判定基準に基づき、最終的な得点が36点以上に回復し中等度以上の後遺症がないものを治癒群、それ以外を非治癒群とした。DM重症度と発症後最低点数の関係をKruskal-Wallis検定を用いて、治癒状態との関係をχ2独立性の検定を用いて検討した。解析にはSPSS ver.18.0Jを使用し、有意水準は5%とした。
【説明と同意】本研究は後方視的研究であるため、当院で定める臨床研究に関する倫理指針に従い、個人が特定できる情報は全て排除し個人の同定ができない状態とした。
【結果】118例の対象のうち、非DM群72例(男性30名、女性42名、年齢58.5±11.7歳)、境界群15例(男性4名、女性11名、年齢64.3±8.3歳)、軽症群16例(男性8名、女性8名、年齢62.4±12.1歳)、重症群15例(男性11名、女性4名、年齢62.8±10.0歳)であった。また118例中のDM合併率は26.3%であった。DM重症度と発症後最低点数との関係はp=0.15と有意差は認められなかった。治癒状態は全体での治癒率74.6%であり、重症度ごとの治癒率は非DM群83.3%、境界群80.0%、軽症群56.3%、重症群46.7%であった。DM重症度と治癒状態は連関係数V=0.32(p=0.01)と有意な相関があり、血糖コントロールが良好なほど治癒例が多かった。
【考察】当院リハビリテーション科で担当した顔面神経麻痺のDM合併率は26.3%とDM一般有病率12.3%(40歳以上を対象、平成18年度)と比較して高値であり、DMが顔面神経麻痺の発症の一因となっている可能性があることを示す。また血糖コントロール状態によって発症時の重症度に関連はなかったが、治癒状態には有意な相関があり、血糖コントロールが不良であるほど予後不良であった。長期間の不適切な血糖コントロールが、単純ヘルペスウイルスI型の再活性化を助長したり、細小血管障害による末梢循環障害・細動脈虚血による単神経障害を引き起こし、顔面神経管内における神経の浮腫・圧迫・虚血をより強めてしまったことが考えられる。これらが原因で、DMが顔面神経麻痺の発症因子の一つとなったり、状態を悪化または回復を遷延させてしまったのであろう。
【理学療法学研究としての意義】近年DM患者数は増加しており、今後DMを合併する顔面神経麻痺患者も増加していくことが考えられる。また、DMによって再発のリスクや両側性・反復性顔面神経麻痺の発症率も高くなるという先行研究もあるため、理学療法開始時にDMを合併しているか、それが疑われる症例に対しては血糖コントロールを含めた患者指導を積極的に実施していくべきである。
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© 2011 日本理学療法士協会
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