理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-403
会議情報

ポスター発表(一般)
脳卒中片麻痺患者のトイレ動作・移乗動作での介入法
立位補助用具を用いて
田代 勝範池畑 雅啓川村 淳一郎脇田 昌明橋口 伸吾田代 なお子染 海王日高 道生
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】
生活動作上介護負担として負荷量の大きな項目であるトイレ動作に対し、介護福祉用具である立位補助用具を発症後長期経過し、かつ立位バランス能力が低下している脳卒中片麻痺患者に対し、環境設定し、動作としての自立度、介助量の軽減が図れるか検証を行った。
【方法】
並行研究にて行った脳卒中片麻痺患者におけるトイレ動作と運動機能評価との関連性をみた症例中、設置に同意を得られたトイレ動作、移乗動作非自立4名に対し、立位補助用具(ベストポジションバー ホクメイ社製 カクイックスウィング提供)を設置し、Functional Independence Measure(以下FIM)点数の変化と他評価項目(Berg Balance Scale(以下BBS)・Brunnstrom Stage(以下BRS)・非麻痺側膝伸展筋筋力・歩行距離(装具、四点杖使用))との関連を見る。4名共に高次能機能障害認められ、立位バランスに影響を及ぼしている。同症例に対し、立位補助用具を設置後、リハビリテーション内での動作練習、トイレ場面での動作練習を反復して行った。
【説明と同意】
本研究は実施時に口頭にて、内容・目的を十分に説明し、患者及び家族の同意を得て実施した。
【結果】
4名における各評価の結果は次の通りである。
A脳梗塞(右被殻部) 発症22ヶ月 72才 BRS上肢2・下肢2 筋力4 歩行距離10m(介助) BBS4点 表在感覚鈍麻 FIMトイレ1移乗1 半側空間無視 注意障害 動作遂行機能障害 立位補助用具導入期間(以下期間)13ヶ月
B脳梗塞(左被殻部) 発症9ヶ月 60才 BRS上肢2・下肢3 筋力5 歩行距離50m(近位監視) BBS24点 表在感覚鈍麻 FIMトイレ4移乗5 Broca失語 観念運動失行 期間2ヶ月
Cクモ膜下出血 発症12ヶ月 84才 BRS上肢2・下肢2 筋力3 歩行距離0m BBS4点 表在感覚鈍麻 FIMトイレ1移乗1 Broca失語 観念失行 期間2ヶ月
D脳出血(右被殻部) 発症38ヶ月 55才 BRS上肢2 ・下肢3 筋力5 歩行距離100m(近位監視)BBS7点 表在感覚鈍麻 FIMトイレ5移乗5 半側空間無視 期間17ヶ月であった。
並行研究(n=24名)では、FIMトイレ動作、移乗動作に対しSpearman順位相関係数においてBRS下肢、筋力、BBS、歩行能力と有意な相関が見られた。当4名においても同様の関係性が推察される。A・Cにおいてはすべての項目で、並行研究と比較して平均値で低いが、B・DではBRS、BBSでは低いものの、他項目では平均より高値の症例であった。数ヵ月の立位補助用具の反復使用練習後FIMトイレ動作でA1→2点、B4→5点、C1→1点、D5→6点、トイレ移乗動作でA1→4点、B5→6点、C1→2点、D5→6点と4名ともにFIM両動作で点数の上昇が見られた。
【考察】
あらゆるFIM運動項目において、程度の差はあるものの、重心移動をコントロールするバランス能力は必要である。トイレ移乗動作は、立ち座りの上下の動きと足部の位置を変えていく移動能力が必要であり、トイレ動作ではズボン等の上げ下ろし時の巧緻的な重心の上下+前後コントロールを行わねばならない。高次脳機能障害者等では、動作の学習獲得能力に困難性を生じており、高い補助(介護)能力が必要となってくる。「目的とする動作を安定した姿勢で達成する為には、中枢神経系は麻痺側の運動速度に合わせ、非麻痺側の運動速度を調整する」(長谷)と述べられているが、高次脳機能障害、感覚障害を有するものは困難である。従って、簡易で体幹全体を預けられる立位補助用具は、巧緻的動作を粗大に置き換え動作を学習習得していくことが可能である。
今回実行してみた問題点としては、依存度が高く、重度半側空間無視症例においては歩行時の重心移動に影響が生じ、歩行距離の延長等は不可能となった。その点からも、人的介助量を軽減する福祉用具は、退院を前提とし、運動機能改善が上限と考えられる患者に対しては、入院中から積極的に利用し、有効活用すべきものと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
当研究では、バランス能力が乏しく、高次脳機能障害を伴い動作獲得が困難な脳卒中片麻痺患者においても、立位補助用具を使用すればトイレ動作での介助量軽減が期待できることが示唆された。
著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top