理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-423
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ポスター発表(一般)
外反母趾対策靴下の装着が足部アーチに与える影響
高井 聡志浦辺 幸夫山中 悠紀笹代 純平藤井 絵里馬 玉宝貞島 健人
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キーワード: 外反母趾, 靴下, 足部回内
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抄録

【目的】
外反母趾(Hallux-Valgus)において、外反母趾角(Hallux-Valgus Angle:HVA)が20 °を超えると疼痛などの訴えが強まる(外反母趾診療ガイドライン、2008)。外反母趾による第1趾の変形と足部の回内が合併することは知られている(Kalenら、1988)。しかし、HVAの増加が足部回内の増加に関係するかは、明確に示されていない。筆者らはこれまでに広島大学と株式会社コーポレーションパールスターが共同開発した外反母趾対策靴下(以下、対策靴下)を継続して使用することで、水平面の分析でHVAが減少していくことを分析し報告した(坂光ら、2010)。本研究では、三次元分析で前足部・中足部・後足部の形状をとらえることにより、対策靴下の装着がHVAを減少させているかを確認し、さらにHVAの減少が足部の回内にも影響するのかを考察することを目的とする。仮説として対策靴下の装着によって三次元分析ではHVAの減少が起こり、足部回内が減少するとした。
【方法】
健常な女性15名、男性6名、計21名(年齢23.0±1.8歳)の42足を対象とした。8台のカメラを搭載した三次元足形測定器(アイウェアラボラトリー社)を足部の形状分析に使用した。マーカーを足部の16箇所に貼付し、裸足、対策靴下の装着の2条件下で立位でのHVA、足囲、舟状骨高、踵部角度等を計測した。前足部の形状変化の指標として、中足骨頭部での足囲を三次元画像から計測した。内側縦アーチの形状については、得られた空間座標から(舟状骨高/足長)×100という方法でアーチ高率を求めた(大久保ら、1989)。後足部の評価として、マーカーの位置からレッグヒールアライメントを算出した。裸足と対策靴下での各測定値の比較には対応のあるt検定を行い、裸足と対策靴下の装着におけるHVAとアーチ高率の変化量の相関分析にはPearsonの相関係数を用いた。危険率5%未満を統計学的に有意とした。
【説明と同意】
本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1014)。対象には研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。
【結果】
三次元分析でHVAは裸足で15.4±5.4°に対し、対策靴下の装着で11.4±4.8°となり、対策靴下の方が4.0°有意に小さくなった(p<0.05)。足囲は裸足で233.0±16.7mm、対策靴下の装着で241.3±17.4mmとなり、対策靴下の方が8.3mm有意に増加した(p<0.05)。アーチ高率は裸足で15.99±2.27%、対策靴下の装着で17.32±2.38%となり、対策靴下の方が1.33%有意に上昇した(p<0.05)。レッグヒールアライメントは裸足で3.1±2.7°、対策靴下の装着で1.8±2.7°となり、対策靴下の方が1.3°有意に減少した(p<0.05)。裸足と対策靴下の装着におけるHVAの変化量とアーチ高率の変化量の間に有意な相関は認められなかった(r=0.01、p=0.9)。
【考察】
今回、筆者らは三次元足形測定器で足部の形状を計測した。これまで水平面上でHVAの変化をとらえており、三次元分析でも対策靴下の装着で約4°減少することを確認した。靴下装着の際に、第1趾の外転方向への動きの修正が単に水平面上のみで起こるのではなく、MTP jointでの外旋によることも確認できたが、正確な回旋角度は求められなかったため今後の検討課題としたい。足囲は対策靴下の装着により8.5mm増加したが、これは前足部アーチの上昇によるものか、さらに検討を進める必要がある。対策靴下の装着によってアーチ高率が大きくなることが明らかになった。これは靴下には直接アーチを上昇させる構造を加えていないことから、HVAの減少がもたらした変化と考えるのが妥当であろう。しかし、対策靴下の装着によるHVAの変化量とアーチ高率の変化量にはほとんど相関がないことが分かり、HVAの減少はアーチ高率を上昇させる可能性があるが、必ずしもHVAの変化量にアーチ高率の上昇の程度が対応しないという結論である。本研究で対策靴下の装着によるHVAの減少が後足部にも影響することが示唆された意味は大きい。前足部のリアライメントが後足部にまで波及するということが明らかになったと判断してよいだろう。これは、さらに下肢全体の動きにも連鎖していくものと考えられる。筆者らの先行研究(神谷ら、2009)では、対策靴下の装着により足部のCOP位置が前方に移動することを示したが、このような足部の機能変化の結果なのかもしれない。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の対象21名のHVAは平均15.4°であり、外反母趾による疼痛を訴えた者は3名のみであった。HVAが大きくない対象でも、三次元分析で足部形状に対するデータが得られ、いくつかの提言をすることが可能となった。これらを基礎データとすることで、外反母趾の愁訴をもつ患者の保存療法の妥当性が示されるようになると考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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