理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-405
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ポスター発表(一般)
座位保持装置に電動装置の取り付けを試みた症例
中西 洋子伊藤 恭江高橋 良明
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抄録
【目的】
電動車椅子は「電動車椅子に係る補装具支給事務取扱要領」を基に市町村から支給されている。今回上肢機能や知的面から電動装置操作が可能であると思われたが、普通型車椅子では姿勢保持が困難な重症心身障害児を担当した。本人の能力を最大限に発揮する目的で、既存の座位保持装置に電動装置を取り付ける取り組みを行った。
【方法】
症例は15歳女性、痙直型四肢麻痺、GMFCSレベル5。身体障害手帳1級、療育手帳Aを所持。筋緊張は末梢になる程伸筋群優位に亢進し、発声や精神的高揚に伴い反り返りが認められる。上肢動作は主に右手で行い、口頭指示または軽介助にて積み木やスイッチ操作等が可能。体幹の安定を得ることで母指と示指にて玩具等を操作することも可能。遠城寺式乳幼児分析的発達検査では移動運動5.5ヶ月、手の運動8.5ヶ月、基本的習慣8.5ヶ月、対人関係2歳2ヶ月、発話2歳8ヶ月、言語理解4.8ヶ月。視線やうなずき等でコミュニケーションを取っていることが多いが、一部の単語は話すことが可能。
H20年12月本人と家族から今後の移動方法について相談を受ける。上肢機能や知的面から電動車椅子での移動は可能であると思われたが、座位保持困難のため上肢の巧緻動作が不十分になる可能性も否定できなかった。そこで、まずデモ用電動車椅子で評価した。H21年1月~12月普通型車椅子に電動装置を取り付けた状態で上肢操作,姿勢,危険回避に着目し、コントローラーの形状や車椅子のバックサポートと座面のサポート量を検討した。コントローラーは6種類試し、最終的にT字状のウレタンにビニルテープを巻きつけたものとし、全身の筋緊張亢進が操作に悪影響を及ぼさないよう、位置も調整していった。操作性向上のため前腕固定を試したが、手指の巧緻性向上のため3ヶ月程で前腕固定を外した。上記の関わりにより上肢動作に伴う筋緊張亢進や体幹の崩れは軽減したが、普通型車椅子ではサポート量に限界があり不安定な姿勢になりやすかった。そこで本人用座位保持装置のバックサポートを普通型車椅子に取り付けたところ、頭部や体幹が安定し、操作している手と目標を見ながら操作できるようになった。同年10月これまでの評価から、1.現在使用中の座位保持装置に電動装置を取り付ける、2.T字状のコントローラーを使用し、その後も上肢動作をみて検討していく、3.操作側アームレストは前腕支持のため幅を広くする必要がある、の三点を確認し、補装具製作業者(以下、業者)を通して市に座位保持装置に電動装置を取り付け可能か確認した。またその後も業者と共に評価,検討を重ね、座位保持装置の調整を行った。
【説明と同意】
本人と家族には電動装置取り付けに対する意思を確認し、適応される制度について十分な説明をした。また市町村への訴えかけや今後の電動装置取り付けの発展に向けて、症例報告の意義を伝え同意を得た上で報告する。
【結果】
H22年1月座位保持装置の修理として電動装置の取り付けを市に申請したが、座位保持装置に電動装置を取り付けた状態での操作場面を見て更生相談所で判定する、と連絡を受ける。同年2月に判定をしたが不十分という結果となり、当園内のみ使用が許可された状態で半年後に再判定となる。同年8月屋内外で再判定をするが本人の精神的な興奮等により判定に値する状況ではなかったため、再び不十分という結果となる。そして普段操作している様子のVTRを提出し再判定してもらうこととなった。同年11月時点でVTR作製中であり今後の方向性は未決定だが、使用限定を解除すべく、屋外操作を中心に更なる操作向上を目指して現在練習中である。
【考察】
電動装置の取り付けにより手と目の協調性向上や体幹コントロールの向上が認められた。これは電動装置操作を通して身体機能が向上したことが示唆され、今後も更なる身体機能向上が期待される。これらを踏まえ、二度目の判定結果から今後は狭い道や蛇行している道等、屋外の様々な場面を想定しながらより実用的な練習していく必要があると思われる。
症例や家族が電動装置を希望した背景には、介助される立場だけでなく、自分で移動し家族と並んで歩きたいという思いがあった。このような思いと症例の身体機能を総合的に評価すると、座位保持装置に電動装置を取り付けることが本症例のQOL向上には必要であったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
今回社会参加を支援するにあたり、環境整備や市町村とのやり取りの困難さを痛感し、様々な職種との連携の重要さを感じた。本症例の他にも座位保持装置に電動装置を装着したいと考えている症例がいるのではないかと思われるため、この症例報告を通して同じように悩んでいる方々の参考になれば、この報告の意義があったといえるのではないかと考える。
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© 2011 日本理学療法士協会
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