抄録
【目的】
当院ではこれまでの臨床実習指導における問題点として、「臨床実習指導者の業務の繁雑さによる実習生とのコミュニケーションの希薄」、「長時間に及ぶ診療時間外のフィードバック」などが挙げられていた。これらの解決の糸口として平成20年度より臨床実習教育体制を一部変更し、「臨床実習指導者に貼り付き」、「指導者による治療の先行提示」、「Now and Here(その時その場で)の指導」の3点を原則とする、クリニカルクラークシップ(以下CCS)を実習初期3~4週間の期間に導入した。そこで今回、当院におけるCCS教育の有用性や問題点、今後の課題を検討することを目的として、当院の臨床実習でCCSを体験した実習生と担当した臨床実習指導者(以下SV)にアンケート調査を実施したのでその結果に考察を加えて報告する。
【方法】
平成20年4月から平成22年3月までに当院で臨床実習を行った実習生30名とそのSVを対象にアンケート調査を実施した。設問はCCSについて4項目、実習全体を通して5項目の計9項目をLikertの5段階尺度(1:強くそう思う2:そう思う3:どちらともいえない4:そう思わない5:全くそう思わない)で回答してもらった。実習生へのアンケート郵送はまず養成校側に本研究の趣旨を説明し、承諾を得た後に養成校から該当者にアンケート用紙を送付してもらうことによって実施した。
【説明と同意】
アンケートの目的、結果を学会発表に使用すること、無記名記載で個人が特定されないようプライバシーを保護することを明記し、同意が得られた場合に回答してもらうよう書面にて説明を行った。
【結果】
実習生のアンケート回収率は63%(n=19)有効回答率は60%(n=18)であった。SVの回収率は83%(n=25)であり、回答はすべて有効であった。回答結果は以下の通りである。
問1「治療や言動を見て学ぶことが多かったか」では、実習生(1:22%,2:72%,3:6%)SV(1:4%,2:76%,3:16%)問2「助言をもらいながら(与えながら)体験することが多かったか」では、実習生(1:22%,2:67%,3:6%,4:6%)SV(1:8%2:68%,3:16%,4:8%)と共にその傾向が強かったという意見が多かった。問3「助言を受けずに(与えずに)一人で行う機会が多かったか」では、実習生(1:6%,2:6%,3:11%,4:67%,5:11%)SV(2:20%,3:48%,4:32%)と助言のもとで行うことが多かったという傾向を示した。問4「チームの一員であると意識できたか」では、実習生(2:44%,3:39%,4:17%)SV(2:36%,3:40%,4:24%)とどちらとも言えない傾向にあることが示された。問5「オリエンテーションは十分であったか」では、実習生(1:33%,2:67%)SV(2:64%,3:20%,4:16%)問6「コミュニケーションは円滑であったか」では、実習生(1:11%,2:67%,3:11%,4:11%)SV(1:8%,2:68%,3:20%,4:4%)とどちらも肯定的な意見が多かった。問7「診療時間外のフィードバックは短かったか」では、実習生(1:6%,2:22%,3:33%,4:28%,5:11%)SV(1:16%,2:60%,3:16%,4:8%)、問8「レポート課題は少なかったか」では、実習生(1:17%,2:44%、3:39%)SV(2:80%,3:16%,4:4%)と共に実習生とSVとで認識に相違があることが示された。実習生のみの質問「症例に直接触れる機会が多く、自信がついたか」では、(1:44%,2:44%、3:12%)と肯定的な意見が多かった。SVのみの質問「当院におけるCCSを理解し実践できたか」では、(1:4%,2:32%,3:44%,4:20%)と理解が不十分であった可能性が示された。
【考察】
今回のアンケート結果から当院の臨床実習はCCSの一部導入により、従来のレポート課題重視の指導から、見学や助言に基づく体験という臨床体験重視の指導へと移行したことで、実習生の自信の向上や実習生とSVとのコミュニケーションの円滑化の向上に繋がった可能性があることが示された。当初の問題点であった実習生とSVのコミュニケーション不足が改善され、CCSの有用性についても示唆された。一方、SV 側のCCSの理解が不十分であること、診療時間外のフィードバックやレポート課題の状況についてはさらなる工夫の必要性があることなどが浮き彫りになったことから、今後SVに対する科内での説明会や臨床実習指導方法に関する教育を展開していくことが、より効果的なCCSの実践に必要な課題であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
実習生を対象としたアンケート調査に関する報告は少ないが、今後は今回のように実習生の意見も参考にして臨床実習のあり方を検討していくことが、より質の高い臨床実習教育を展開する上で重要な課題であると考える。