理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
トレッドミル上での連続歩行時における足圧中心の左右方向への変化について
酒井 孝文河村 顕治山下 智徳
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p. Aa0128

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抄録
【はじめに、目的】 人は加齢に伴う筋力低下、バランス能力の低下などにより歩行中の転倒事故が増大し、それに伴う身体機能の低下、動作能力の低下が、高齢者の寝たきりを引き起こす要因となっている。転倒予防を行う上で、加齢に伴う歩行の変化の抽出は重要な研究課題といえる。これまで、一定時間以上の連続歩行を計測し、歩行中の連続した足圧や連続した足圧中心(以下、COPと略す)について、加齢変化による影響の幾つかの報告を行ってきた。今回、足圧分布計測システムをベルト面下に配置したトレッドミルを用いて、健常若年者と健常高齢者の歩行分析を行った。本研究の目的は、連続歩行におけるCOP左右軌跡からみた加齢による特徴を明らかにすることである。【方法】 対象は健常若年者64名(男性32名、女性32名)、年齢19.4±0.6歳、健常高齢者32名(男性10名、女性22名)、年齢76.0±4.6歳である。方法はビデオ画像と同期した足圧評価解析機能を有するトレッドミル(Zebris WinFDM-T、Zebris Medical GmbH)を用いて30秒間の歩行の計測を行った。被験者は事前に数分間の練習を行い、トレッドミル歩行に十分に慣れた後、安全に歩行可能な至適速度にて計測を行った。転倒事故を防止するため、トレッドミルの前方に手すりを設置し、後方と側方に介助者を配置した。足圧データは両脚支持期を含めた踵接地から離床までのCOPを用いた。本システムではバタフライイメージでCOPの軌跡が出力される。COPの位置は左右方向で表示し、左右軌跡の移動距離と、中心点の軌跡を算出した。統計処理は群間比較でMann-Whitney検定を行った。すべての検定において、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、吉備国際大学「人を対象とする研究」倫理規定、『ヘルシンキ宣言』あるいは『臨床研究に関する倫理指針』に従う。吉備国際大学倫理審査委員会に申請し、審査を経て承認(吉備国際大学倫理審査委員会 受理番号:08-05)を得た。対象者に対し、臨床研究説明書と同意書にて研究の意義、目的、不利益および危険性、口頭による同意の撤回が可能であるということなどについて、口頭および書類で十分に説明し、自由意志による参加の同意を同意書に署名を得て実施した。【結果】 若年群のCOPは左右移動距離11.15±0.79%、中心軌跡0.50±0.45%であった。また、時間距離的因子は歩行速度64.2±10.3 m/min 、重複歩距離62.6±8.7 % 、歩調59.4±3.9 strides/minであった。高齢群のCOPは左右移動距離12.52±1.64%、中心軌跡0.72±0.57%であった。時間距離的因子はそれぞれ26.0±11.9 m/min、33.3±12.3 %、55.0±10.0 strides/minであった。群間比較において高齢群は、COPは左右移動距離に有意な増大(p<0.001)を示した。時間距離的因子では高齢群は歩行速度の低下(p<0.001)、重複歩距離の低下(p<0.001)、歩調の低下(p<0.05)を示した。【考察】 高齢者の左右方向へのCOPの移動距離は健常者に比べ増大していた。しかし、左右方向へのCOPの同調性の変化は認められなかった。先行研究において高齢者は小刻み歩行、すり足歩行、歩隔の拡大などにより、踵ロッカーを機能させるために必要な踵接地が十分に行えておらず、前足部へ偏位した代償的なパターンでの重心制御によって歩行を遂行していると報告している。つまり、前方向へのCOPの移動し、前足部という狭い部位にて重心制御を行うことで不安定性を増加させている。そのため、この不安定性を打ち消すために左右方向への重心の移動距離を増大させる歩行様式を獲得したと考えられる。また、前方への重心の変位、左右方向への重心移動距離の増大といった不安定な歩行を固定化されたパターンで行っていると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本システムにより、これまで困難であった多歩数計測、信頼性の高い解析が可能である。また、加齢による足圧の変化を明確にすることで、健康寿命の増進や疾患の特異的な足圧様式の考察を深める基盤となり、理学療法学研究としての意義は大きい。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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