理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
トレッドミル片側ステップ運動の筋活動と呼吸循環応答
鈴木 博人小田 ちひろ佐藤 萌布施 かおり星 佳織吉崎 寛之藤澤 宏幸
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p. Aa0129

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抄録
【はじめに、目的】 脳卒中片麻痺患者において非対称性の歩容(非麻痺側下肢の歩幅の減少)が残存する場合が多い.Kahn(2009)は脳卒中片麻痺患者の歩容に対する一つの介入法として,トレッドミル外にて麻痺側下肢を支持に利用し,非麻痺側下肢のみでステップを行うトレーニング(unilateral step training:UST)を提唱した.また,2週間のUST実施したところ,非対称的な歩幅の改善が認められたと報告している.しかし,USTにおける筋活動量や呼吸循環応答に関する結果は明確に示されていない.以上の経緯より,本研究の目的は,健常者において左下肢をトレッドミル外の台に載せ,右下肢のみトレッドミル上で連続ステップ(unilateral step:US)した際の体幹・下肢筋活動と呼吸循環応答への影響を明らかにすることとした.【方法】 対象は,喫煙歴のない健常青年10名とした(男性4名,女性6名:年齢21.3 ± 1.1歳)とした.測定項目は,筋活動量(最大随意収縮時の筋活動量:MVCを含む)および呼吸循環応答とした.筋活動量の測定について,被検筋を左右の脊柱起立筋,大殿筋,中殿筋,大腿二頭筋,大腿直筋,ヒラメ筋の計12筋とした.呼吸循環応答の測定は, Breath-by-Breath法にて酸素摂取量,酸素脈,呼吸数,一回換気量,分時換気量を測定した.測定条件について,運動パターン条件はトレッドミル歩行(treadmill walking:TW)とUSの2種類,歩行速度条件は30 m/min,60 m/minの2種類,合計4条件とした.測定手順であるが,各条件を十分に体験させた後,TWを先に実施させ,その後USを実施させた.各運動パターン条件において,安静座位を3分間とらせた後,30 m/min,60 m/min の順にそれぞれ3分間実施させた.USを行う際は,左下肢を荷重計の上に載せ,右下肢をトレッドミルのベルト上に載せた.また,右立脚時に左下肢へ体重の30 %(± 10 kg)を荷重するよう指示した.データ解析として,一歩行周期をフットスイッチのデータから決定した.また,筋電波形は, MVCを100 %として各筋電位を基準化した.また,呼吸循環応答の指標について,代表値を各条件終了直前30秒間の平均値とした.統計解析として,筋活動量の積分値と最大値および呼吸循環応答の各指標について,運動パターン(2水準)と歩行速度(2水準)の2要因で二元配置分散分析(被験者内計画)を行った.また,多重比較にはSchafferの方法を用いた.統計学的有意水準は危険率5 %未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の主旨を説明し,書面にて同意を得た.また,未成年者に対しては保護者からの同意も得た.【結果】 筋活動パターンは,TWと比較しUSにおいて左下肢の全被検筋に変化がみられ,収縮時間が延長していた.左下肢各被検筋の積分値において,左大腿直筋の積分値にのみ運動パターンの主効果が認められた(p<.05).左下肢全被検筋の最大値を分析した結果,運動パターンの主効果が認められ(p<.05),USで低値となった.呼吸循環応答に関しては,酸素摂取量・酸素脈(p<.001),一回換気量(p<.01) ,呼吸数(p<.05)に運動パターンの主効果が認められた.酸素摂取量,酸素脈,一回換気量はUSで低値となり,呼吸数はUSで高値となった.また,一回換気量では交互作用が認められ(p<.05),両歩行速度条件でUSが低値となった(p<.01).【考察】 USで筋活動パターンの曲線がなだらかとなり,股関節周囲筋において収縮時間がTWに比べ延長した.このことは,USにおいて左下肢の運動が支持中心となっていたことが考えられた.呼吸循環応答では, USで酸素摂取量,一回換気量,酸素脈が低下し,呼吸数では増加していた.酸素摂取量が低下した要因としては,左下肢でのステップ運動が消失したことにより,股関節周囲筋以外の筋活動が減少し,左下肢全体での筋活動量も減少傾向にあることが考えられた.また,USでは筋の収縮時間が延長することで,筋ポンプ作用が低下したと推測された.それに伴い静脈環流量も低下し,一回拍出量も低下したと考えられた.このことは,一回拍出量の指標である酸素脈が低下したことからも理解できる.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,TWとUS時の筋活動量および呼吸循環応答の違いが明らかとなった.TWと比較すると,USは少ない酸素摂取量で股関節周囲筋の活動が維持された.したがって,低体力者において支持性を高める筋活動を促しながら反復練習が可能になると考えられる.しかし,USでは筋活動の変化に伴い,呼吸・循環調節に変化が現れることが可能性もあるため,リスク管理に配慮する必要がある.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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