理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
健常者の歩行踵離地の力学特性
─股関節と足関節の関係性について─
近藤 崇史福井 勉
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p. Aa0131

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抄録

【目的】 歩行周期において踵離地(以下:HL)は立脚期を100%とした時に49%(Perry 1992),58%(Kerrigan 2000)などと報告されているが,理学療法における歩行観察場面ではHLのタイミングが早い症例と遅い症例を経験する.HLのタイミングが早い症例では膝折れなどが,遅い症例ではアキレス腱炎(入谷2006)やロッキングなどを引き起こすとされている.歩行時のHLから遊脚期にかけては足関節底屈モーメントが遠心性パワーから求心性パワーへと切り替わり大きな力がかかるとされる.しかし,HLのタイミングの違いが下肢各関節のメカニカルストレスに変化を及ぼすかについての詳細は明らかにされていない.Horak(1986)は静止立位時の外乱に対する姿勢制御戦略として足関節戦略(ankle strategy),股関節戦略(hip strategy)を報告し,姿勢制御戦略を足関節と股関節の関係性により説明した.最近ではLewis(2008)が歩行時に対象者に異なる蹴り出しを行わせることで足関節と股関節が相互に力学的代償を行うと報告した.われわれはこの足関節,股関節の関係性がHLのタイミングに影響を与えると推察し,歩行時のHLのタイミングの違いと股関節,足関節の力学特性の関係性を検討することを本研究の目的とした.【方法】 対象は健常成人男性12名(年齢:30.1±1.6 歳)とした.測定には3次元動作解析装置(VICON Motion system社)と床反力計(AMTI社)を用いた.標点はVicon Plug-In-Gait full body modelに準じて反射マーカー35点を全身に添付した.各対象者には自由歩行を連続7回行うよう指示し,分析には自由歩行時に1枚のフォースプレート上を歩くことに成功した下肢の力学データを左右分けることなくすべて採用した.計測値として歩行速度および歩行時の股関節・膝関節・足関節の関節角度,関節モーメントおよび関節パワーを算出した.解析項目として1.HL時の股・膝・足関節の関節角度・モーメント・パワーの値(以下:HL値),2.立脚期の股・膝・足関節の関節角度・モーメント・パワーの最大値(以下:ピーク値)を抽出した.さらに,1.各HL値とHLのタイミング(歩行周期中の百分率;%)の関係を分析し,2.各ピーク値とHLのタイミング(歩行周期中の百分率;%)の関係を分析した.統計分析は統計ソフトSPSS 18J(SPSS Inc.)を使用した.統計手法には偏相関分析を用い(制御変数;歩行速度),有意水準は1%未満とした.【説明と同意】 文京学院大学大学院保健医療科学研究科倫理委員会の承認を得たうえで,対象者には測定前に本研究の趣旨を書面及び口頭で説明し,参加への同意を書面にて得た.【結果】 全対象者の自由歩行から立脚期の力学データが抽出可能であった下肢は123肢(左下肢53肢,右下肢70肢)であった.1.HL値では,HLのタイミングが遅れるほど股関節伸展角度の増大(r=-0.82),股関節屈曲モーメントの増大(r=-0.55),足関節底屈モーメントの増大(r=0.49),股関節負のパワーの増大(r=-0.786),足関節負のパワーの増大(r=-0.71)との間に有意な相関関係を認めた.2.ピーク値では,HLのタイミングが遅れるほど足関節背屈角度の増大(r=0.59),股関節屈曲モーメントの減少(r=0.41),足関節底屈モーメントの増大(r=0.663),股関節負のパワーの増大(r=-0.536),足関節正のパワーの増大(r=0.67),足関節負のパワーの増大(r=-0.68)との間に有意な相関関係を認めた.【考察】 健常者のHL時の力学的特性として,HLのタイミングが遅れるほど股関節屈曲筋および足関節底屈筋の遠心性活動を高めていることが示唆された.さらにピーク値ではHLのタイミングが遅れるほど,股関節屈曲筋が活動を減少させていくのに対して,足関節底屈筋が求心性・遠心性活動をともに高めていることが示唆された.これらのことよりHLのタイミングが遅れるほど,発揮しづらい状況となる股関節屈曲筋の力学的作用を代償するために,足関節底屈筋が活動を高めていることが推測された.上記の理由からアキレス腱炎などHLのタイミングが遅れる特徴を有する症例では,股関節機能の代償による足関節底屈筋の力学的過活動がメカニカルストレスを引き起こし障害へとつながると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 歩行観察時にHLのタイミングを指標とすることで,足関節の代償性過活動による機能・能力障害を有する症例に対し,股関節・足関節の相互の関係性を考慮に入れた理学療法介入を可能にすることを提示できたことに,本研究の意義があると考えられる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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