理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
上肢挙上における胸郭・肩甲骨運動の年代による比較
─3次元CTでの解析─
堀江 翔太石原 康成立原 久義
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p. Aa0139

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抄録

【はじめに、目的】 凍結肩では,肋骨・胸椎と肩甲骨の運動異常が生じており病態の一つと推測されている.しかし,健常者の肋骨運動が明らかになっていないため凍結肩患者での評価を困難にしている.本研究の目的は,健常者における上肢挙上時の肋骨・胸椎と肩甲骨の動きを評価しその特徴と年代による違いを明らかにすることである.【方法】 対象は肩疾患の既往のない健常者で,男性18名,女性15名である.これらを20代の若年者群(以下Y群)(男性10名,女性7名,平均年齢24.9歳)と40~60代の中年者群(以下M群)(男性8例,女性8例,平均年齢51.5歳)の2群に分類して,肋骨・胸椎と肩甲骨の動きを評価し年代別の特徴を検討した.測定方法は,肩下垂位,160°挙上位の2肢位で胸部3次元CTを撮影し,骨格前後像にて肋骨・胸椎と肩甲骨の動きを評価した.肋骨の動きは,肋椎関節を基準として肋骨先端の上下方向への移動距離を測定した.胸椎の動きは,胸椎伸展角度を測定した.肩甲骨の動きは,肩甲棘の角度を測定し,肩甲骨の上方回旋角度に対する肩甲上腕関節での挙上角度の割合(Scapulohumeral rhythm,以下SHR)を測定した.統計学的検討にはMann-Whitney’s U検定を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】 病院倫理委員会の承認を得た上で,本研究の目的とリスクについて被験者に十分に説明し,同意を得た.【結果】 対象全体の下垂位から160°挙上位での肋骨移動距離は平均5.6mm(最大は第5肋骨で10.3mm)であった.M群では平均5.2mm(最大は第5肋骨で9.4mm), Y群では平均6.0mm(最大は第5肋骨で11.2mm)であり有意差はなかった.男女別に比較すると,男性ではY群に比べM群の第2~4肋骨で動きが小さかった(p<0.05).女性では2群間に差はなかった.対象全体の下垂位から160°挙上位での胸椎伸展角度は平均3.6°であった.M群では平均3.8°であり,Y群では平均3.4°であり有意差はなかった.対象全体の下垂位から160°挙上位でのSHRは平均2.6であった.M群では平均2.4,Y群では平均3.0であり,M群で有意にSHRが小さかった(p<0.01).男女別に比較すると,男性では2群間に差はなかったが,女性ではY群のSHRが大きかった(p<0.01).【考察】 本研究より,上肢挙上に伴う肋骨運動は年代によらず,第5肋骨を中心に挙上しており,同様な運動パターンを示すことが明らかとなった.また,男性では加齢に伴い肋骨運動が低下する可能性が示唆された.さらに,SHRは若年女性で大きいことが明らかとなった.従来の報告では加齢に伴い肩甲胸郭関節の動きが低下しSHRが大きくなるとされている.しかし,本研究では若年女性でSHRが大きく,肩甲胸郭関節の動きが少なかった.この原因として,現代の女性は昔の女性と比べ生活様式の多様化,体型・下着などの変化により胸郭・肩甲骨運動の変化が生じている可能性がある.このため,若年女性の胸郭・肩甲骨運動は中年女性に比べて少ない傾向にあったと考察した.今後は,現代の若年女性の下着・体型等の変化による身体変化が胸郭・肩甲骨運動に及ぼす影響を検証していきたい.【理学療法学研究としての意義】 凍結肩では,肋骨・胸椎と肩甲骨の運動異常が生じており,病態の一つと推測されている.本研究により,健常者における上肢挙上時の肋骨・胸椎と肩甲骨の動きが明らかとなった.今後,凍結肩患者と比較することで病態を明らかにし,より有効な理学療法を提供できる可能性がある. 

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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