理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
立位と端座位における体幹の姿勢反応の関係について
馬場 康博対馬 栄輝重岡 直基
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p. Aa0146

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抄録

【目的】 歩行中の体幹運動の異常を把握するために,立位での体幹の姿勢反応を評価することがある.対して端座位における体幹の姿勢反応は,下肢の影響を極力取り除いた体幹機能を表していると考える.下肢に機能的異常を来す者では,下肢の影響を受ける立位と端座位の体幹姿勢反応は異なるはずである.しかし体幹・下肢に障害の見られない健常者では,立位と端座位での体幹姿勢反応は,ほとんど相違ないと推測する.そこで,基礎的な知見を得るために,健常成人を対象とした立位と端座位における体幹姿勢反応の比較を行った.具体的には,立位・端座位のそれぞれで体重を左右に移動させたときの肩甲帯と骨盤の傾斜角度を測定し,その関連性について検討した.【方法】 対象は健常成人41名とした.平均年齢は23.0±3.1歳,身長は166.9±6.4cm,体重は58.3±6.3kgであった.あらかじめ被験者の左右肩峰と左右腸骨稜に,マーカーとして直径2.5cmの赤色玉ウキを貼付した.端座位における測定では,被験者を治療台に深く腰掛け,下腿と台の間は手掌1枚分空くようにさせ,足底は非接地となるようにした.立位の測定では,開始肢位は両下肢を股関節の幅程度に開くようにさせた.端座位,立位のどちらにおいても両上肢を胸の前で組ませ,被験者には「体重を左(右)へ,できるだけ遠くまで移動して下さい」という指示を与え,最大限に側方へ体重移動させた.測定の順序は,立位,端座位の順で行い,左右の施行順序はランダムとし,左右とも2回ずつ実施した.測定の前に,動作を習得させるための練習として,左右方向へ各1回ずつ運動を行わせた.これらの運動で側方移動時の姿勢は各被験者の任意とし,端座位における殿部,また立位における下肢が支持面から離れることも被験者の任意とした.被験者には最大に移動した姿勢を保持した状態で「はい」と言わせた.一連の運動は,デジタルスチルカメラ(CASIO社製EXFH100)を用いて240fpsで撮影した.カメラは,前額面後方の2.5mの位置に,被検者が可能な限りカメラの中心に写るように設置した.記録した映像はパソコンにてArea61ビデオブラウザver.5.3.1(freeware)を用いて静止画として保存した.静止画をもとに,画像解析ソフトImageJver.1.41(freeware)を用いて,マーカーを目印に左右肩峰を結ぶ線と水平線のなす角度(肩甲帯傾斜角度),および左右腸骨稜を結ぶ線と水平線のなす角度(骨盤傾斜角度)を測定し,2回分の平均をデータとした.また骨盤傾斜角度から肩甲帯傾斜角度を引いた値を体幹の立ち直り角度とした.以上の手順は全て同一の検者が行い,事前に再現性(ICC(1,1)ρ=0.91~0.95)が高いことを確認した.画像の解析によって得られた左右方向の肩甲帯傾斜角度,骨盤傾斜角度,体幹の立ち直り角度において,立位と端座位の間の相関係数を求めた.統計的解析にはSPSS12.0Jを用いた.【倫理的配慮】 この研究はヘルシンキ宣言に基づき,被験者には実験前に実験内容を十分に説明し,書面で同意を得た.また,弘前大学大学院医学研究科倫理委員会の承認を受けて実施した(整理番号:2010‐150).【結果】 左右の肩甲帯傾斜角度,骨盤傾斜角度,体幹の立ち直り角度について,立位と端座位の関係をPearsonの相関係数によって求めたところ,右方は順にr=0.75(p<0.01),r=0.17,r=0.65(p<0.01),左方は順にr=0.68(p<0.01),r=0.28,r=0.51(p<0.01)であった.【考察】 立位と端座位における肩甲帯傾斜角度と体幹の立ち直り角度は高い相関があった.このことから立位と端座位の姿勢調節として肩甲帯と胸腰部は,同様の姿勢戦略で対応していたと考える.しかし,骨盤傾斜角度は立位と端座位で有意な相関を認めなかった.これは,骨盤が下肢機能の影響を受けている可能性を表しているかもしれない.立位においては,体重移動側と反対側の下肢の姿勢反応によって,端座位とは異なったと推測する.例えば,下肢に障害を来す患者の立位と端座位の肩甲帯傾斜角度と体幹の立ち直り角度を観察して,その違いを検討すると,下肢障害の影響を推定する上でも,有効な情報となるだろう.【理学療法学研究としての意義】 立位と端座位の姿勢反応の関係が明確になったことにより,立位と端座位の姿勢反応が異なる例では,その原因を追究する必要性があるといえる.また,下肢の整形外科疾患で術後免荷を要される時期であっても,端座位で姿勢反応から立位の姿勢反応を推測するための指標,さらには治療の一指標となり得る点でも本研究の意義がある.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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