理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
視覚性フィードバックの提示方法の違いが運動学習に与える影響
丸山 拓朗谷 浩明
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p. Aa0164

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抄録

【目的】 運動学習にはフィードバックによる情報が一定の役割を果たしている.特に,視覚的フィードバックは,目標からの細かいズレを学習者に提示するのが容易なことから,スポーツやリハビリテーションの現場でしばしば用いられている.ただ,こうしたフィードバックをどのような提示様式で与えるかについては,指導者,あるいは用いる機器の特性に委ねられている.そこで,今回,体重移動の課題を用いて,視覚性フィードバックの提示様式を変化させた場合に,そのパフォーマンスの改善や学習効果に違いがあるかを確かめることを目的として研究を行った.【方法】 対象は,神経的,整形外科学的障害を有しない健常成人63名(男性:36名,女性:27名,年齢:19.7±0.83歳)である.運動課題は,静止立位の状態から一側下肢(右)への体重移動とした.荷重目標値は体重の2/3とし,目標値を維持するのではなく,一峰性の荷重曲線を描くように体重移動後は速やかに静止立位へ戻ることとした.運動課題遂行時,対象者の前に置かれたモニタ上に荷重目標値,自ら産出した荷重量を同時フィードバックとして提示した. フィードバック提示方法は,荷重量の変化が針の直線的な動きで表示されるメータ表示と自らの荷重変化が時間軸に沿って表示される荷重曲線表示の二種類とした.この2つの提示方法に,荷重変化の提示方向の違い(垂直方向,水平方向)を加え,メータ表示-垂直方向群,メータ表示-水平方向群,荷重曲線表示-垂直方向群,荷重曲線表示-水平方向群の4群で比較を行なった. 実験は,練習相(18試行)と想起相(6試行)で構成された.練習相では,それぞれの条件で毎試行,視覚性フィードバックが付与された.想起相では,5分後,24時間後にそれぞれ3試行のフィードバックなしの想起テストを実施した.1試行はすべて12秒で終わるように統制した.荷重量の変化は,荷重変換器(共和電業:特注)で検出し,ストレインアンプと一体化したA/D変換器(共和電業:PCD300B)を介して500Hzのサンプリング周期でパーソナルコンピュータに取り込んだ. 測定後,全24試行を3試行ごとの6ブロックに分け,各ブロックで,恒常誤差(以下,CE),変動誤差(以下,VE)を算出し,目標値で正規化した.これら2つの指標の練習相,想起相について,試行ブロック,提示方法,提示方向の3要因による分散分析を行った.統計学的解析にはSPSS Ver.17.0を用いた.【説明と同意】 国際医療福祉大学倫理委員会(11-14)の承認を受け,参加者に紙面および口頭にて十分な説明を実施し同意を得たものを対象とした.【結果】 練習相でのCEは全体的に減少傾向を示し,試行ブロックによる主効果が認められた(F=28.04,p<0.01)ほか,試行ブロックと提示方向の交互作用が見られた(F=6.63, p<0.01).VEは練習相において,メータ表示の方が低い値を示す傾向が見られた.解析の結果,試行ブロック(F=19.84, p<0.01)に加え,提示方法による主効果(F=6.03, p<0.05)が認められた.想起相でCEはすべての条件で上昇傾向を示したが,提示方法にかかわらず,垂直方向での提示が水平方向に比べて低値を示した.解析の結果,試行ブロック(F=35.10, p<0.01),提示方向(F=6.76, p<0.05)の主効果が認められた.想起相でのVEはほとんど変化がなく,統計的な有意差は認められなかった.【考察】 CEの結果は,練習によって体重移動課題がうまくなっていることを示している.加えて,想起相では水平方向の提示が垂直方向のそれより有意に低いことから,体重移動課題の学習においては垂直方向への視覚性フィードバックが有効であると推察される.これに対し,VEの練習中には提示方法による差が認められ,メータ表示の方が練習中のパフォーマンスにおいて有利であることが示された.また,想起相においてCEが24時間後には値を大きく上昇させてしまうのに対し,VEはいずれの条件でも低い値が維持されていた.これは,本研究の課題で,学習者が課題遂行と同時に提示する視覚性フィードバックを利用する際の方略の特徴を表しているとも考えられる.【理学療法学研究としての意義】 今回,体重移動課題の練習では垂直方向へのメータ表示のフィードバックが効果的とする結果が得られた.これは,課題によって最適なフィードバックの提示様式があることを示唆している.この研究結果をふまえ,より臨床的な検証を進めることで,視覚性フィードバックを用いた有効な運動指導方法や治療用機器の設計の一助となる可能性が考えられる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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