理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 口述
聴覚および視覚フィードバックが運動学習の習熟過程・保持に及ぼす特性の違い
東口 大樹大矢 敏久高橋 秀平西川 大樹上村 一樹内山 靖
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Aa0165

詳細
抄録

【はじめに、目的】 理学療法の臨床現場では学習において視覚によるフィードバック(以下FB)がよく利用されその効果も明らかとなっているが、モニタやスクリーン等の準備が必要となる。一方、聴覚FBは簡易に与えることが可能で臨床現場への応用性が高いが、聴覚FBが及ぼす影響についての報告は限定的である。Ronsseら(2011)は、聴覚FB、視覚FBを与えた際の上肢運動学習において、視覚FBは学習の習熟過程での学習効果が大きいこと、また、それぞれのFBを取り除いたときに視覚FBはその後の学習効果が保持されなかったのに対し、聴覚FBでは学習効果が保持されたと報告している。姿勢制御課題に対する感覚FBの影響について多くの報告があるが、聴覚FB・視覚FBを用いた効果的な運動学習の習熟過程および保持効果への影響は明らかにされていない。本研究では、聴覚FBと視覚FBが姿勢制御課題での運動学習の習熟過程・保持への影響を比較し、その特性を明らかにすると同時に、効果的な運動学習方法を考案するための基礎データを得ることを目的とする。【方法】 対象者は健常大学生32名(年齢21.8±2.4歳)であった。FBの種類と学習習熟過程中にFBを除去するかを考慮し、1)視覚FB群、2) 聴覚FB群、3)視覚FB除去群、4)聴覚FB除去群の4群に分類し、男女によるブロック層別化の上で、無作為に群分けした。対象者は、重心動揺計(アニマ社製ツイングラビコーダ G-6100)上でRomberg肢位となり、運動課題として、足圧中心点(COP)のマーカで、一定速度で動く指標を追従するボディトラッキングテスト(BTT)を1試行あたり30秒間行った。重心動揺計の取り込み時間は50ミリ秒とした。評価指標は、指標とCOPの位置座標との誤差の平均値(以下、誤差平均値)とした。PC画面上に表示される指標を視覚FBとし、一定周波数のメトロノーム音を聴覚FBとした。実験1では、学習の習熟過程にFBの種類およびFBの除去が与える影響を検討するため、同一日内に5試行を1セットとし7セット行った。FB除去群では6セット目から各FBを除去した。実験2では、学習の保持にFBの種類およびFBの除去が与える影響を検討するために、1週間後に、FBを与えた課題と除去した課題を各1セットずつ行った。統計処理は分散分析および事後検定を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 所属施設生命倫理審査委員会の承認を得た上で行った。被験者には、個別に研究内容の説明を行い文書により同意を得た。【結果】 実験1の誤差平均値は、視覚FB群で聴覚FB群に比べ、全セットで有意に小さかった{1セット目;視覚FB群0.70±0.12(cm)、聴覚FB群1.19±0.30(cm)}{7セット目;視覚FB群0.43±0.07(cm)、聴覚FB群0.81±0.19(cm)}。 実験1の6セット目でFBを除去した場合の誤差平均値は、聴覚FB除去群と視覚FB除去群との間に有意に交互作用がみられ、聴覚FB除去群では視覚FB除去群に比べ変化率が有意に小さかった{聴覚FB除去群5セット目1.09±0.34(cm)-6セット目2.14±0.76(cm)、視覚FB除去群5セット目0.63±0.09(cm)-6セット目2.63±0.53(cm)}。実験2の誤差平均値は、視覚FB群では聴覚FB群に比べ、FBを与えた課題で有意に小さかった{視覚FB群0.65±0.11(cm)、聴覚FB群 1.27±0.36(cm)}。また、FBを与えた課題とFBを除去した課題ともに聴覚FB群と聴覚FB除去群に有意な差はみられなかったが、FBを除去した課題の誤差平均値は、視覚FB群で視覚FB除去群に比べ有意に大きかった{視覚FB群3.31±0.88(cm)、視覚FB除去群2.23±0.55(cm)}。【考察】 視覚FBは聴覚FBに比べ、習熟過程および学習の保持において誤差が小さく、学習効果が大きかった。これは、視覚FBは聴覚FBに比べ空間認知情報が多く位置の誤差修正は習熟しやすいためであると考える。また、視覚FB群は学習の習熟後にFBを除去した場合、与え続けた場合に比べ学習効果の保持が良好となる可能性が示された。一方、聴覚FBは視覚FBに比べ、習熟過程や学習の保持において、そのFBを除去した場合でもパフォーマンスに与える影響が少なかった。トラッキング課題は純粋なFB制御に加え、予測的な制御が関わるといわれている。聴覚FBは視覚FBに比べ、空間認知情報が少なく、学習が習熟するにつれて、予測的な制御が行われるようになることで、内部モデルの形成が促進されるのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 高齢者や有疾患者などのバランス練習を行う際に、聴覚FBと視覚FBを組み合わせた効果的な練習方法を考案するための基礎データが得られた。今後、介入研究を行うことで学習の習熟初期では視覚FBを用い、習熟が進行とともに聴覚FBを用いることが有効な練習方法となる可能性が示され、効果的な理学療法への発展が期待できる。

著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top