理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
異なる視覚指標距離における外乱動揺刺激に対する反応時間の検討
青木 修大谷 啓尊
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キーワード: 視覚, 反応時間, 外乱
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p. Aa0873

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抄録
【目的】 姿勢制御において、視覚の役割が重要であることは広く知られている。健常者の立位重心動揺を調べた研究では、視覚参照点までの距離が近いほうが、遠い場合よりも重心動揺が小さくなることが報告されている。臨床において、立位バランスの不安定な者は、前方よりも下方を見ることで、あるいは広い空間よりも狭い空間で不安感が軽減することがある。これは、近い距離にあるものを見ることで視覚的な定位を得て立位動揺を制御していると考えられる。つまり、視覚参照点までの距離が近いほうが、フィードバック情報としての立位姿勢の傾きを鋭敏に検知できていると考えられる。今回我々は、立位姿勢で外乱を与えた際に起こる姿勢制御反応時間は、視覚参照点までの距離が近いほうが、遠い場合に比べて早くなると仮説を立て、健常者を対象とした実験を行った。【方法】 被験者は健常成人8名(年齢29.1±4.8歳)とした。姿勢制御の反応を測定するにあたり、被験者の股関節および膝関節を硬性装具で固定し、関与する関節を足関節のみに限局した。開始肢位は両上肢体側下垂位で、閉脚立位とした。後上腸骨棘の高さで装具にひもを取り付け、後方から2kgの重錘で牽引した。外乱刺激は、10秒間の計測中の任意の時間において急に牽引を離すことで抜重し、前方への外乱を与えた。外乱刺激開始を検出する目的でひもに小型加速度計を、刺激に対する反応を検出する目的で右腓腹筋に筋電図を取り付けた。サンプリング周波数は1000Hzとした。加速度計の波形と筋電図の波形から、外乱刺激に対する姿勢制御反応時間を計測した。上記の測定環境下で、視覚参照点までの距離を1.5mおよび6.0m、閉眼の3条件とし、3試行の平均反応時間を算出した。直径3cmのマーカーを視覚参照点として、注視するよう指示した。3条件の比較にあたり対応を持たせるために、被験者ごとにデータをブロック化してSteel-Dwassテストを用いた。有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は当院の倫理委員会により承認され、実施に当たっては被験者に書面を用いて本研究の目的と方法を説明し、同意を得た。【結果】 1.5m条件での反応時間の171.2±31.1ms、6.0m条件では219.9±21.8ms、閉眼条件では262.9±32.2msであった。すべての条件間の比較において有意差が認められた(1.5m vs. 6.0m:p<0.05、1.5m vs. 閉眼:p<0.01、6.0m vs. 閉眼:p<0.05)。【考察】 視覚からのフィードバック情報を基にした運動の潜時は50~70msとされる一方、体性感覚のフィードバック情報を基にした運動の潜時は100~150msとされており、その差は30~80ms程度である。本研究では姿勢制御反応時間は、開眼条件(1.5mおよび6.0m条件)で約170ms~220ms、閉眼条件で約260msと遅いものであったが、本研究の開眼条件(1.5mおよび6.0m条件)と閉眼条件の反応時間差は約40~90msであり、感覚モダリティの違いによる反応時間の差は報告と一致する。視覚フィードバックの潜時は、ランプ点灯でスイッチを押すような運動開始反応の潜時であり、本研究で実施した外乱に対する立位姿勢制御反応とは異なる。このため、報告された潜時よりも反応時間が長かったものと考える。本研究結果から、視覚参照点が近いほうが外乱刺激に対する姿勢制御反応は早く起こることが示された。視覚参照点が近いほど重心動揺が小さくなることを報告した研究では、視覚参照点が近くなることで網膜上の像の変位や動眼筋の固有感覚情報が正確になるためと報告されている。本研究結果も、視覚フィードバック情報が正確になることで、姿勢制御反応も早くなったのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究では健常者において、外乱に対する姿勢制御反応は視覚指標の遠近に影響を受けるのかについて調べた。その結果、視覚指標が近いほうが姿勢制御反応は早く起こることが示された。本研究は姿勢制御反応が視覚参照点の距離に影響を受けることを示した基礎研究である。本研究結果はバランス練習の際の難易度を設定する上で有益な情報であると考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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