理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
加齢による求心性・遠心性収縮時の関節位置制御特性
竹林 秀晃滝本 幸治宮本 謙三宅間 豊井上 佳和宮本 祥子岡部 孝生森岡 周
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p. Aa0885

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抄録
【はじめに】 日常生活の動作は,様々な筋収縮様式や力の加減や運動速度の調節により成り立っている。臨床場面においては,求心性収縮(Concentric contraction:CON)より遠心性収縮(Eccentric contraction:ECC)の方が困難な場面が多くみられ,転倒等にも関与すると考えられる。CONとECCでは神経系活動の違いが報告されており,ECCでは,伸張反射およびH反射興奮性が低い,皮質脊髄路の興奮性も低い,運動関連電位は有意に高いことなどより複雑な神経系活動が求められることが関与している。これらのことからCONとECCを単なる関節運動のパターンとして分けるのではなく,神経系の違いによる運動の協調性に対する評価・トレーニンとして捉える必要があると考える。そこで,加齢による影響について視標追従課題におけるCONとECC時の関節位置制御の特性を探ることを本研究の目的とした。【方法】 対象は,地域在住でADLに支障のない65歳以上の健常高齢者48名(年齢75.6±7.0歳,男性18名,女性30名:高齢者群),若年成人30名(年齢21.9±2.1歳,男性14名,女性16名:若年群)した。運動課題は,NKテーブル上での椅坐位での膝伸展(0°~90°)のCONとECC運動を右から左にスクロールされていくPC画面上の基線を追従する課題とした。実験プロトコルは,5秒間の安静後,10秒で90°~0°までのCON後,2秒間保持させ,10秒で90°~0°まで戻すECCを2回分繰り返す課題とした。負荷量は,2kgに統一した。計測には,HUMAC360(CSMi社製)を使用した。本機器は,ケーブルの長さの変化により関節位置を検知する装置であり,ケーブルの長さで補正した関節位置情報の線形図をPCの画面上に表示し,実際の関節位置と目標値がリアルタイムに呈示される機器である。データ処理は,サンプリング周波数100HzでPCに取り込み,各自の最大伸展時の長さで正規化し,目標値と応答値を%表示となるようにした。関節位置評価は,目標値と応答値の絶対誤差平均,恒常誤差平均,最大誤差値,変動係数を求めた。統計学的分析は,CONとECCそれぞれ高齢者群と若年者群の比較には,paired t test,各群間におけるCONとECCの比較にはunpaired t testを用いて検討した。なお,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】 実験プロトコルは,非侵襲的であり,施設内倫理委員会の承認を得た.なお,対象者には,書面にて研究の趣旨を説明し,同意を得た.【結果】 絶対誤差平均では,高齢群・若年群ともにECCの方が有意に大きく(p<0.01),群間比較では高齢群の方がCON・ECCともに有意に高値であった(p<0.01)。恒常誤差平均においては,高齢群・若年群ともにCONでは,誤差値は-となり,ECCにおいては+を示し,有意な違いを認め(p<0.01),ECCにおいては高齢群の方がより高値であった(p<0.01)。最大誤差値,変動係数には有意差は認められなかった。【考察】 本実験での視標追従課題は,力の加減と関節位置制御を同時に求められる課題である。ECCでは筋が伸ばされながら収縮しているため筋紡錘からのインパルス発射頻度は増加するにもかかわらず,伸張反射や皮質脊髄路に対する何らかの神経的抑制機序によりで筋の長さを円滑に引き伸ばしていると考えられる。絶対誤差平均の結果から高齢群・若年群ともにECCが関節位置制御の難易度が高く,高齢群でより顕著であった。これは,ECCにおける複雑な神経系の抑制機序が加齢により影響を受けることによるものと考えられる。ECCでは,同じ角度のCONの局面に比べてわずかに小さなトルクを発揮する筋弛緩の要素が必要である。運動単位の脱動員は,脱動員閥値張力が高いとされている。ECCでは,力を抜きすぎた場合は,運動単位の動員し,そこから調節のため再び脱動員しなければならないというより複雑な調節が必要となる。そのため,可能な限り力を抜きすぎないような制御をしている可能性がある。そのため恒常誤差においてECCで+を示し,高齢群の方がより高値であったと思われる。これらのこは,同じ力仕事量であっても,運動制御特性が異なることを示している。【理学療法学研究としての意義】 CONとECC時の神経学的な背景の違いを外部出力としての関節位置制御で評価できる意義は大きく,今回若年者・高齢者ともにECCの調節の困難性を示した。また,加齢による関節位置制御の特性を明らかにすることにより,臨床場面や高齢者の体操教室等のプログラムを考える際の根拠になる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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