理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
高感度小型加速度計を用いた関節音図の研究
─変形性膝関節症の評価─
田中 紀行寳珠山 稔
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p. Aa0884

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抄録
【はじめに、目的】 関節音図(Vibroarthrography: VAG)は、変形性関節症(OA)の機械的摩擦を振動信号として活用し、関節軟骨表面の状態を評価する非侵襲的な手法である。初期研究は、実験的環境下にて膝関節から発生する音をマイクロフォンにて記録していたが、近年の加速度計の発展により膝関節の機械的振動を広帯域周波数にて記録が可能となった。本研究の目的は、膝OA患者のVAG信号を日常生活動作の起立着座動作時に測定し、膝OAの非実験的研究下でのVAG特性を明らかにすることである。【方法】 78名145膝の被験者が研究に参加した。内訳は、健常若年群25名50膝(男性13名、女性12名、平均年齢25.1±4.2歳)、健常高齢群26名49膝(男性8名、女性18名、平均年齢72.5±11.5歳)、OA群27名46膝(男性5名、女性22名、平均年齢73.2±9.3歳)であった。健常群は、OA兆候がなく、また過去に整形外科疾患及び神経疾患のないものとした。OA群の診断は、膝関節のX線画像より骨棘形成の有無、関節裂隙狭小化や臨床症状による痛みの有無、関節動揺、可動範囲の制限等を聴取し、整形外科医師が判断した。X線画像よりKellgren-Lawrence Grading System(KL)のステージ1-3に分類されたものをOA群の対象とした。OA群の内、外科手術を受けたもの、神経疾患による二次的なもの、慢性関節リウマチ、その他全身疾患によるものは除外した。対象者は、椅子に着座し膝関節90度屈曲位で足底と床面を設置した状態を開始ポジションとした。足幅は対象者の肩幅程度とした。三軸加速度センサは、膝関節外側裂隙の皮膚表面に配置し、ポテンショメータは内側に骨軸を大腿骨及び脛骨として設置した。起立着座動作は検査者の指示のもとに実施し、タイミング及びスピードはコントロールされた。被験者は、膝関節90度屈曲位の座位から膝関節完全伸展位の立位を起立とし、椅子に腰をかけた状態を着座とした。起立着座動作は、10秒間で1回実施できるタイミングとスピードで2回実施し、20秒間継続してデータを計測した。加速度センサ及びポテンショメータの信号は、0~350ヘルツの帯域幅フィルタを通過した後に記録された。信号は、3キロヘルツのサンプリング周波数にてアナログデジタル変換した後にパソコンに転送された。VAG信号は、運動や身体動揺に起因する振動ノイズからの区別を行うため、25ヘルツのハイパスフィルターを用いて低周波ノイズを最大限除外した。VAG信号から算出したRMS値を50ヘルツごとの6段階のグループで平均値を算出し、各グループ間にてANOVAを用いて比較した。ANOVAにて主効果が認められた場合、Tukey-Kramer法を多重比較検定の方法として適応し、5%未満のp値を有意水準とした。ポテンショメータからは膝関節の角度変化をモニタリングした。運動速度は、角度変化のはじまりから終わりまでを計測した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の目的及びその他の内容は、参加者全員に説明し、内容を理解した上で同意の得られた対象者に実施した。本研究は、名古屋大学倫理委員会の承認を受けて行った。【結果】 各群の主効果は、50-99 (F(2, 142)= 10.44, p<0.001)、 100-149 (F(2, 142)= 7.98, p<0.001)と 250-299ヘルツ (F(2, 142)= 5.22, p<0.005)で有意差が認められた。統計解析の結果は、250-299ヘルツで健常若年群と比較してOA群が有意に高値を示した。50-149 ヘルツは、健常若年群及び健常高齢群と比較してOA群が有意に高値を示した。健常若年群と健常高齢群の有意差は認められなかった。各群の起立着座動作時の膝関節の屈伸スピードに有意差は認められなかった。【考察】 本研究結果は、OA患者はVAG信号が大きいと言う先行研究結果と基本的に同様の結果を示した。しかし、先行研究でのVAG信号は実験的研究下で記録されており、座位にて膝屈伸を行うという実験的要素では、VAG信号は主に膝伸展時に出現したと報告されている。この結果は、主に膝蓋骨の機能的な異常と報告されている。本研究のOA群のVAG信号は、可動時全般に観察されたことより、先行研究とは異なる病理学的変化を示す有益な情報であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究方法を用いることによりOAの病理学的変化を簡便にかつ短時間に評価できる。OAの早期発見を可能とするスクリーニング的な方法としての今後の活用が可能であると考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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