抄録
【はじめに、目的】 廃用性萎縮筋においては,筋線維の萎縮や毛細血管数の減少が生じ,伸張刺激などの機械的刺激は筋の萎縮抑制のみでなく,毛細血管数を増大させることが報告されている.そこで本研究では近年,骨格筋血流量の評価に有用とされているタリウム‐201トレーサー(201Tl) を用い,廃用性萎縮筋に対する伸張運動が血流動態に与える影響と毛細血管数の関係を検討するとともに,血流量および筋萎縮とその抑制の関連について長軸部位別に検討し,血流動態と筋萎縮抑制の関係を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は8週齢のWistar系雄ラット(n=39)の両側ヒラメ筋で,これらを対照群(C群:n=10),2週間の後肢懸垂(以下HS)による非荷重で廃用性筋萎縮を惹起する群(HSA群:n=7),HS中に伸張刺激(以下ST)を加える群(STA群:n=7),HS後,筋摘出直前にSTを加える群(HSB群:n=7),HS,及びST終了後,筋摘出直前にSTを加える群(STB群:n=8)の5群に振り分けた.伸張運動は間歇的伸張運動とし,体重の50%の負荷にて10日間実施した.実験期間終了後,201Tlを腹腔内投与し,両側ヒラメ筋を摘出した.右側ヒラメ筋は201Tlの取り込み率の測定に使用した.その後,筋を長軸に4分割(0-25%,25-50%,50-75%,75-100%)し各部位の201TIの取り込み分布を測定した. C,HSA,STA群の 左側ヒラメ筋は,筋長の25 %(近位部),50% (中央部),75% (遠位部)切断面の凍結横断切片に Hematoxylin‐eosin染色を実施し,筋線維横断面積(Cross‐Sectional Area:以下,CSA)を測定した.また Alkaline phosphatase染色を実施し,毛細血管数を測定し,毛細血管数/筋線維数(C/F 比) を算出した.各群の取り込み率の比較は一元配置分散分析を,部位別の群間の取り込み分布比,各群の部位間の取り込み分布比の比較には,群間と部位間で二元配置分散分析を行い,その後Tukeyの方法による検定を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は本学動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号:AP‐091481).【結果】 CSA の群別の比較ではHSA群,STA群において各部位間に有意差が認められ,近位部<中央部<遠位部の順に高値を示した.部位別の比較では全部位においてHSA群<STA群<C群の順に高値を示した.C/F 比の群別の比較ではC群の中央部は有意に低値を示した.部位別の比較では近位部においてC群と比較し,HSA群は有意に低値を示した.STA群は有意差を認めなかった.遠位部ではC群と比較しHSA群とSTA群は有意に低値を示した.【考察】 我々は第46回本学会において,非荷重により血流分布は遠位部の血流は阻害され近位側に偏位し,また日常的な伸張刺激により筋の血流分布が常態に保たれる可能性を報告した.本研究のC/F 比の結果においては,非荷重,あるいは伸張刺激による血管数への影響は部位ごとに異なり,近位部においてはその影響が最も大きく,血流分布とは一致しなかった.このことから,廃用性萎縮筋の血流の分布には血管数のほかに,血管の構造的な退行が起因している可能性が考えられた.CSAの測定結果から,非荷重による筋萎縮進行,あるいは伸張刺激による筋萎縮抑制効果は部位間に相違があり,近位部がその影響を最も受けやすいことが示された.また本研究において,部位ごとの血流分布とCSAの増大の傾向は異なり,血流分布の変化が筋萎縮やその抑制効果に与える影響は小さいと考えられた.【理学療法学研究としての意義】 本研究は廃用性萎縮筋では伸張刺激に対する血管数や筋線維横断面積の反応が部位間で異なることを示し, 理学療法における伸張刺激方法の工夫の必要性を示唆した.また伸張刺激が血流動態の常態化へのアプローチとしても有効であることを示した.このことは,理学療法の基礎データとして有用である.