理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
不動化に陥る前の運動が疼痛発生に及ぼす影響
─ラットを用いたトレッドミル走での検討─
中村 浩輔酒井 成輝水野 奈緒田崎 洋光肥田 朋子
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p. Aa0895

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抄録
【はじめに、目的】 理学療法対象者の中で,長期臥床者や治療のために関節を固定している者や,麻痺などから不動化状態を呈する者などは,痛みを訴えることが少なくない.近年,我々の研究室から不動化に伴い痛覚過敏が生じることや,不動化に陥る前に温熱刺激を加えることで,先取り鎮痛効果が得られたことを報告している.受傷・発症前に運動習慣のあった患者では,このような不動化に陥っても疼痛の訴えが少ない印象があり,運動習慣もまた先取り鎮痛効果を示すのではないかと考え,不動化によって生じる痛覚過敏に対し,不動化前のトレッドミル走が痛覚過敏を予防できるか,特に皮膚痛覚閾値だけではなく,筋圧痛閾値についても検討した.【方法】 対象は8週齢のWister系雄ラット10匹とし,トレッドミル走を行うT群と行わないC群に分けた.T群には25m/sで1日20分,5日間トレッドミルを走らせ,その後,両群とも左後肢のみ足関節底屈位でギプス固定を行い(それぞれT-G群,C-G群),右後肢はそのコントロール(T-C群,C-C群)とした.固定期間は4週間としたが,週5日間は,イソフルラン吸入麻酔下にてギプスを取り除き,覚醒後,皮膚痛覚および筋圧痛閾値を測定した.皮膚痛覚閾値測定には自作の数種類のvon Frey フィラメントを用いて,逃避反応を利用して調べた.測定は各肢で1週間ごとのデータの平均値を各期間の代表値とした.筋圧痛閾値はRandall-Selitto装置(ウゴバジレ社製)を用いて,皮膚痛覚測定と同頻度で計測した.固定4週間後に灌流固定し,L4-6の後根神経節を摘出し,10μm厚の凍結切片にサブスタンスP(SP)免疫組織化学染色を施した.その後,全細胞数に対するSP含有細胞数を算出した.統計には,1要因分散分析(対応あり,対応なし)と多重比較検定,Mann-WhitneyのU検定,Kruscal-Wallis検定を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は,本学動物実験委員会の承認を得て実施した.【結果】 T-C群,C-C群の皮膚痛覚閾値は,4週目まで有意差は認められなかった.C-G群は0週目から順に49.6±11.2g,51.4±4.9g,37.6±4.0g,29.6±0.8g,23.5±1.6gとなり,0週と1週目,1,2週と3,4週目,3週と4週目の間に有意な低下が認められた(p<0.05).T-G群においては,0週目から順に36.8±4.8g,51.4±4.5g,46.6±4.0g,34.4±2.2g,29.8±3.8gとなり,1週と2,3,4週目,2,3週と4週目の間で有意に低下した(p<0.05).4週目の時点で,T-G群とC-G群の間には有意差が認められた(p<0.05).C-G群の筋圧痛閾値は,0週目から順に83.8±0.6g,79.2±1.1g,75.4±0.7g,73.9±0.4g,74.6±0.7gとなり,0,1週と他の週すべてに有意差を認めた(p<0.05).T-G群では,0週目から順に83.9±0.6g,79.6±0.8g,77.1±1.2g,75.1±1.4g,75.9±1.6gとなり,0週目と比較し他の週すべてで有意に閾値が低下した(p<0.05)が,1週目以降には有意差は認められなかった.SP含有細胞比率はC-G群では13.1±4.7%, T-G群では13.6±3.9%,C-C群では8.8±2.5%,T-C群では9.4±3.0%であり,各群間に有意な差は認められなかったが,ギプス固定をしたC-G群,T-G群はC-C群,T-C群と比較し,SP含有細胞比率が多い傾向であった.【考察】 今回の疼痛行動評価の結果から,不動化により皮膚痛覚閾値が低下することに加え,筋圧痛閾値も低下することが示された.また,不動化前のトレッドミル走は,皮膚・筋の痛覚過敏をある程度抑制する効果があり,運動習慣のある場合には不動化による痛覚過敏を予防できることが示された.一方,ギプス固定群のSP含有細胞比率は,ギプス固定を行っていない群と比較して高い傾向がみられた.これは,Guoらと同様の結果であった.しかし,T-C群とT-G群の同細胞の含有比率間に差はなく,トレッドミル走の影響は受けなかった.そのため,今後は他の痛みの神経伝達物質であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などの発現についても検討していく必要があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 不動化に陥る前のトレッドミル走は,不動化による皮膚および筋の痛覚閾値低下を抑制することが示唆された.このことは,運動習慣の有無が不動化による疼痛発生に影響している可能性を示しており,予防の観点から運動習慣の大切さを伝えるデータとなりうる.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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