抄録
【はじめに、目的】 長期臥床などによる廃用性筋萎縮では、早期に萎縮筋の肥大・再生を促す事が重要である。しかし、実際の臨床場面では、萎縮進行中に介入が行えることは少なく、ある程度進行した状態から介入が開始されることが多い。筋萎縮に伴う筋の脆弱化は諸家によって示されており、再荷重開始時より全荷重をかけることは、過負荷である可能性がある。そこで、廃用性筋萎縮を惹起後に荷重刺激を加え、荷重刺激開始早期の萎縮筋の変化を経時的に分析・検討し、萎縮筋に荷重刺激が与える影響と肥大・再生反応の過程を明らかにすることを本研究の目的とした。【方法】 49匹のラットヒラメ筋を実験対象とし、非荷重群・再荷重群・コントロール群を設定した。非荷重期間は2週間(H14群)とし、再荷重群は非荷重後に再荷重1日群(R1群)、3日群(R3群)、7日群(R7群)、10日群(R10 群)、14日群(R14群)とした。コントロール群は、実験開始期(C群)とした。染色法は免疫蛍光抗体法を用いてジストロフィン・DAPIの染色とHE染色を用いた。検討項目として、筋線維横断面積(以下CSA)、筋核数(以下MN)、筋核ドメインサイズ(以下MDS:一つの筋核によって支配される限られた筋細胞質量)、壊死線維・中心核線維の発生割合を挙げた。統計学的分析は、CSA、MN、MDSはBonferroniの多重比較を、壊死線維・中心核線維の発生割合の比較にχ2検定を用いた。有意水準は5%とした。なお、本研究は金沢大学動物実験委員会の承認を得て実施した。【結果】 非荷重によってCSAは減少し、再荷重によって増加傾向を示した。CとR10群、H14とR3群、R1とR3群間以外の全ての群間で有意差を認めた。非荷重・再荷重によるCSAの全体的な減少・増加は、ヒストグラムにおいてそれぞれ左・右への偏移で表わされた。R10・R14群では小径線維(~400μm2)が多く認められた。MNはC群に比較し、H14・R1・R3群で有意に減少しており、R7・R10・R14群では減少した値を示したが、有意差は無かった。また、H14群より有意に増加を示した再荷重群はなかった。MDSは非荷重によって減少傾向を示したが、有意差は無かった。H14群に比べ、再荷重群は経時的な増加傾向を示した。有意差はH14・R1・R3群とR14群間で認めた。壊死線維の発生割合は、後肢懸垂、再荷重開始により共に有意に増加した。R1群において最大値を示し、その後は減少傾向を示した。R1とR7・R10・R14群間において有意差を認めた。また、H14とR1・R3・R10群において、C群よりも有意に大きい値を示した。中心核の発生割合は再荷重に伴い徐々に増加した。H14・R1群とR7・R10・R14群間、C群とR14群間で有意差を認めた。【考察】 MNは再荷重開始早期には増加を示さず、その後徐々にコントロールレベルへの回復を示した。しかし、2週間の再荷重ではコントロール群まで回復しなかった。CSA・MDSの変化の過程に注目すると、共に再荷重3日目までの増加の程度は小さく、再荷重7日以降より著明な増加が認められている。再荷重7日目はMNがコントロール群と有意差がないレベルまで回復した時点と一致している。筋肥大・再生は再荷重に伴い開始されるが、MNの増加がCSAやMDSの増加に影響を与え、肥大の効率が上がった可能性が考えられる。CSAのヒストグラムより、再荷重10日、14日群において小径線維が多く認められた。壊死線維の再生時に小径線維が発生するためと考えられる。中心核線維は、再荷重に伴い増加傾向を認め、再荷重7日以降は非荷重14日と再荷重1日群に比較して有意に多く認められた。中心核は筋再生時だけでなく、肥大中の新たな筋核の分化においても認められると考えられ、中心核線維と小径線維の増加時期に相違を認めた可能性がある。また、中心核線維が小径線維よりも早期に増加したことより、再荷重開始直後は肥大が再生よりも多くの割合で起こっている可能性がある。しかし、本研究では肥大や再生時の指標となる筋衛星細胞の活性化については分析検討しておらず、さらなる検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】 筋肥大・再生の過程は一様ではなく、時期によって増加率に相違があることが示された。そのため、肥大・再生の経過を考慮した萎縮筋に対する理学療法介入時期・方法の検討が効率的でより効果的な理学療法を提供するうえで必要であると考えられる。筋肥大が再生よりも早期に起こる可能性があり、低負荷から介入を開始し、筋損傷の発生を抑えながら肥大を促すと治療効果が大きい可能性があるが、今後の検討が必要だと考えられる。