理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
新たに開発したモデル動物を用いた末梢動脈疾患に伴う疼痛機序の解明
堀 紀代美林 功栄鈴木 重行易 勤山口 豪尾崎 紀之
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p. Aa0903

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抄録
【はじめに、目的】 閉塞性動脈硬化症などの末梢性動脈閉塞症(peripheral artery disease: PAD)は軽症期には手足の冷感や一定の距離の歩行で下肢の筋に痛みが出現する間歇性跛行が症状として最も多く、進行すると安静時にも疼痛が起こり、QOL(Quality of Life)やADL(activities of daily life)の低下をもたらし、大きな問題となっている。臨床においてPADには理学療法の有効性が認められ、ガイドラインにおいても監視下運動療法が推奨されているが、間歇性跛行や安静時疼痛などの痛みの発生は理学療法を実施する上で大きな支障となることが多い。しかしながら、このような虚血性疼痛の発生および維持機構は基礎的にも臨床的にもほとんど研究が進んでいない。本研究ではPAD で見られる虚血性疼痛の分子メカニズムを明らかにするため、モデルラットを作製し、その病態ならびに下肢の虚血に起因する筋の痛覚過敏に関与するイオンチャネルを検索した。【方法】 ラットの左総腸骨動脈および左腸腰動脈を結紮することで下肢の血流を阻害したPADモデルラットを作成する。対照群では動脈の露出のみ行う。このモデルラットにおいて、下腿の皮膚血流量の測定、足部の皮膚温の測定、熱刺激および機械刺激による皮膚の疼痛行動の評価、機械刺激に対する筋の疼痛行動の評価、および歩行能力テストによる間歇性跛行の評価を行った。また、動脈結紮による組織の壊死および再生の有無を確認するため、ラットの下腿の皮膚や腓腹筋の組織学的検討を行った。さらにPADモデルラットで見られた痛覚過敏に、疼痛への関与が報告されているイオンチャネルのTRPV1、P2X3,2/3、ASICsの拮抗薬を使用した行動薬理学的検討も加えた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、国際疼痛学会の倫理委員会が定めたガイドライン(Zimmermann 1983)および金沢大学動物実験規定に準拠し、金沢大学動物実験委員会の承認のもとに実施した。【結果】 PAD群では動脈結紮処置後の行動評価より、皮膚の機械的痛覚過敏は1週まで、筋の機械的痛覚過敏は3週まで認められ、間歇性跛行は12週まで続いた。また、皮膚血流の減少が6週まで、皮膚温の低下が4週まで認められた。組織学評価より、処置後4日では筋の壊死像が観察された。疼痛行動評価で筋の痛覚過敏のみ認められる2週目(14日)の行動薬理学評価より、筋の痛覚過敏に対し、TRPV1拮抗薬は効果を示さなかったが、P2X3,2/3ならびにASICs拮抗薬は筋の痛覚過敏を抑制した。【考察】 PADモデルラットは慢性的な筋の痛覚過敏と間歇性跛行を呈し、PADの痛みのメカニズムの解明に有用である。下肢の血流阻害による筋の痛覚過敏には、P2X3,2/3、ASICsの関与が示唆され、PADにおける虚血性の筋の疼痛の発現に重要と思われた。【理学療法学研究としての意義】 本研究は,PADの慢性虚血性筋痛のモデル動物を確立したものと考えられる。このモデル動物を用いたPADによる慢性虚血性筋痛のメカニズムを明らかにする取り組みは、臨床現場でPADの運動療法を行う理学療法士にとって、病態の把握や評価、現行の理学療法の適切な処方・実践に繋がり、さらに本モデルを用いた新たな理学療法の開発も期待できる意義深い研究であると考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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