理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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経頭蓋磁気刺激の運動誘発電位に随意的深呼吸が及ぼす影響
長岡 孝則岩部 達也尾崎 勇
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p. Ab0427

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抄録
【はじめに、目的】 経頭蓋磁気刺激 (TMS) で筋から記録される運動誘発電位 (MEP) は,被検筋に至る皮質脊髄路の興奮性の定量的評価を可能にする.MEPは,被検筋の収縮,運動イメージの想起によって増大することが知られているが,呼吸の位相や深さによってどう変化するかは明らかでない.本研究では,意識レベルを揃えた条件で,呼吸に関与しない手指筋のMEPが随意的深呼吸によりどう変化するかを検討した.【方法】 対象は健常男性7名 (20~27 歳) で,平均身長171 cm (169~177 cm) だった.被験者はヘッドレスト付の肘掛け椅子に座り,頭を動かさず,リラックスした状態を保った.Magstim 200(Magstim社製)を用い,円形コイルのA面を上にして頭部に当て,左運動野を刺激した.MEPは右第一背側骨間筋 (FDI) からNicolet社製筋電計VIKING QUESTを用いて記録した (bandpass 10 Hz~3 kHz, サンプリング周波数20 kHz, 分析時間50 ms) .安静時50μV以上のMEPが10回の刺激で5回以上誘発される最小強度 (閾値) と場所を探索し,閾値の150%の強度で記録した.睡眠時無呼吸検査装置 (日本光電社製) とセンサカニューレを用い,鼻呼吸圧フローを連続的にモニターし,被験者の胸郭の動きを目視して呼吸相を判別し,呼気/吸気相でそれぞれ3回MEPを測定し一試行とした.MEPに影響を及ぼす意識レベルを一定に保持するため,1) 短編小説を読む,2) 示指外転運動を想起する2セッションを設定して,安静呼吸および深呼吸のそれぞれで6試行繰り返して,被験者毎に各条件の加算平均MEPを求めた.MEP振幅は陰性頂点から陽性頂点まで,潜時は陰性電位の立ち上がりを計測した.各試行の初回刺激で極端に振幅の大きいMEP,最後の刺激で極端に小さいMEPおよび呼息と吸息の移行期に刺激トリガーが出た場合のMEPは解析から除外した.統計学的解析にはSPSS 11.5 Jを用い,MEPの振幅と潜時について,呼吸様式 (安静呼吸,深呼吸) × 運動イメージの有無 (運動イメージの想起,読書) × 呼吸相 (呼気相,吸気相) の3way ANOVAを行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属大学の倫理委員会の承認を得ており,対象者には実験内容を十分に説明し,書面により同意を得た.【結果】 MEP振幅では,3way ANOVAで運動イメージ (F=23.039, p<0.01,n=7) と呼吸様式 (F=18.724, p<0.01,n=7) について主効果が有意に認められ,呼吸相では主効果はなく,交互作用もなかった.平均MEP振幅 (mean±SEM,n=7) は, 読書中の安静呼気/吸気時3.3/3.5 ± 0.5 mV, 深呼気/吸気時4.9/5.0 ± 0.7 mV に対し,運動イメージ想起では,それぞれ 6.0 ± 0.9/0.8 mV, 7.0/6.8 ± 0.9 mV だった.MEPは運動イメージだけでなく,深呼吸でも有意に増大した.一方,MEP潜時も,運動イメージと呼吸様式のみ主効果が有意だった.平均MEP潜時は,安静呼気/吸気時22.0 ± 0.4 ms, 深呼気/吸気時で21.6/21.5 ± 0.4 msに対し,運動イメージ中はそれぞれ21.2 ± 0.3/21.1 ± 0.4ms, 20.8/20.6 ± 0.3 msだった.MEP潜時は,運動イメージの想起や努力深呼吸で約0.5~1.4 ms短縮した.【考察】 本研究では,深呼吸を行うことで,TMSによってFDIから記録したMEPの振幅増大と潜時短縮が認められた。これは,運動イメージの想起と同様に,深呼吸によっても下行性運動経路から手指筋に至る一次運動野領域の興奮性が高まることを示している.随意呼吸に伴い,fMRIでは両側の感覚運動野や補足運動野,運動前野,小脳など広汎な領域の活動が報告されている.これらの運動関連領域の活動が,一次運動野の体部位再現地図上で体幹筋に隣接する手指筋の領域に促通的な影響を及ぼす結果, FDIのTMS興奮性が高まったと考えられる. Liら (2011) は,できるだけ速い強制的深呼吸をすると,吸息では手の伸筋群,呼息では伸筋,屈筋両群のTMS興奮性が増加すると報告している.本研究では,ゆっくり随意的な深呼吸でも,呼吸相の差なく,安静呼吸に比べてFDIのTMS興奮性が増加することが示された. 【理学療法学研究としての意義】 運動イメージのほか随意的深呼吸で手指筋の皮質興奮性は増大することから,呼吸のタイミングに合わせ伸筋群,屈筋群へ選択的に刺激することができれば,痙縮改善の臨床応用が可能になるだろう.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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