理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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加齢に伴う運動パフォーマンスの不安定性さについて
笠原 敏史安食 翼小山内 仁美
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キーワード: 運動制御, 加齢, 足圧中心
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p. Ab0434

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抄録
【目的】 運動障害に加えて、加齢に伴うバランス能力低下は転倒や廃用性症候群を招き、高齢者の健康を著しく損なわせる。高齢者の姿勢と運動制御の特徴は運動開始時間に対する遅い反応時間によって定義されるような慎重な運動戦略を取り入れる(Trukerら)。Linらは高齢者の運動方略は若年者と比べてより固定化した戦略でしか行えないことを指摘している。しかし、バランス能力の年齢差の研究では有意差を持つ結果と無い結果が混在し、要因として高齢者の運動成績の大きなばらつきが指摘されている。高齢者の場合、運動機能の低下により制約を受け、最終的に一定の運動戦略を用いているにも拘わらず、運動成績の低下・不安定という矛盾を生じている。本研究では高齢者の運動成績の不安定さと運動制御について調べた。【方法】 対象は健常若年男女8名(男性 2名、女性 6名。平均20.9歳、平均161.8cm、平均48.3kg)、健常男性高齢者14名(平均69.2歳、平均163.6cm、平均62.1kg)。被検者は目の高さに置かれたディスプレイを見ながら、裸足で床反力計上に両脚で立つ。画面を上方に動く目標と足圧中心(COP)を示すマークを同時に写し出し、目標にCOPを円滑に一致するよう追跡させた。目標の動きをランプ状とステップ状に設定した2種類の離散運動課題とした。目標振幅(=最大前方移動量)は50 mm、周波数0.5 Hzとした。各課題10周期以上繰り返し行わせ、LabViewにて記録、処理した。COPの座標データは10Hzのローパスフィルタにて平滑化した。Matlabを用いて目標の位置と被検者のCOPの軌跡のデータを微分した速度波形から各被験者の10周期分の平均値を求め、以下の項目について高齢者と若年者を比較した。目標の運動開始(T0)をCOPの運動開始(T1)からの差を反応時間とした。COPの運動開始は安静立位時300 msecの平均±2×標準偏差(2SD)を超えた点とした。T2をCOP最大後方位時間とし、その時の値をBW、T2 - T1を運動準備期とした。T3を目標の運動終了とした。T4をCOP最大前方位時間とし、その時の値をFW、T4 - T2を推進期とした。T5を運動終了とし、安静立位時300 msecの平均±2SD内を100 msec以上続く最初の点とした。T5 - T4を制動期とした。さらに、運動の安定性について各値の相対的変動係数(RSD)を用いた。統計解析はSPSSを用いて有意水準0.05以下とした。【説明と同意】 本研究は本学に設置されている倫理委員会の承認を得(承認11-03)、被検者に書面をもって十分な説明を行い、同意を得た者が実験に参加した。【結果】 ステップ課題の反応時間は若年群326.8 ± 30.4 msec、高齢群365.1 ± 72.6 msec、有意差をみなかった。反応時間RSDは若年群9.3 %、高齢群19.9 %であった。運動準備期は若年群153.4 ± 25.5 msec、高齢群165.7 ± 60.4 msec、有意差をみなかった。運動準備期RSDは若年群16.6 %、高齢群36.5 %であった。推進期は若年群400.8 ± 132.8 msec、高齢群322.6 ± 51.1 msec、有意差をみなかった。推進期RSDは若年群33.1 %、高齢群15.8 %であった。制動期は若年群676.0 ± 314.6 msec、高齢群933.9 ± 472.0 msec、有意差をみなかった。制動期RSDは若年群46.5 %、高齢群50.5 %であった。FWとBWに群間の有意差をみなかった。ランプ課題での反応時間は若年群372.9 ± 36.2 msec、高齢群359.9 ± 38.3 msec、有意差をみなかった。反応時間RSDは若年群9.7 %、高齢群10.6 %であった。運動準備期は若年群140.3 ± 17.0 msec、高齢群167.9 ± 52.6 msec、有意差をみなかった。運動準備期RSDは若年群12.2 %、高齢群31.3 %であった。推進期は若年群407.3 ± 82.7 msec、高齢群363.4 ± 69.5 msec、有意差をみなかった。推進期RSDは若年群20.3 %、高齢群19.1 %であった。制動期は若年群707.1 ± 390.9 msec、高齢群528.9 ± 240.9 msec、有意差をみなかった。制動期RSDは若年群55.3 %、高齢群45.6 %であった。高齢者のFWのみ若年者より有意に高値であった(p<0.05)。【考察】 加齢による反応時間の遅れが一般的である。しかし、今回の結果は健常若年者と健常高齢者の間に年齢差を認めず、このことは高齢群の大きなばらつきと関係している可能性がある(内山ら)。ステップ課題とランプ課題の各期の変動性に異なる結果が生じていた。特に、ステップ課題において高齢群の制動期のRSDは高値を示していた。スタップ課題はランプ課題に比べ運動終了までの時間がほとんどない。従って、高齢群では同じ随意運動でもランプ課題に比べより弾道的なステップ運動に対する制動能力が若年群より低下している可能性がある。【理学療法研究としての意義】 高齢化する患者の理学療法において運動障害に加えて、加齢の伴う機能低下を考慮する必要がある。高齢患者の転倒のメカニズムは複雑であるが、本研究により高齢者は素早い運動に対する制動能力の低下することが明らかとなった。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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