理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
レーザーポインターを用いた光追視イメージ想起が脳活動に及ぼす影響
―近赤外光脳機能計測を用いた検討―
光武 翼一ノ瀬 和洋堀川 悦夫
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キーワード: 頸部, 運動イメージ, NIRS
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p. Ab0435

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抄録
【目的】 近年、他者行動の観察によってmirror neuron(以下MN)が活性化され、効率的な運動学習を促進するという報告などがあり(Small SL, 2010)、様々な研究によってイメージ想起時の脳活動が明らかにされている。しかし、観察者が過去に経験していない他者行動の観察や観察された行為の目的が明確ではない場合は、MNの活性化が起こりにくい(Cross ES, 2009: Calvo-Merino B, 2005)。そのため、目的が明確である手指などの緻密な操作はMNが活性化し、イメージ想起しやすいが、頸部は眼球運動と頭部に連動する部位(Gordon J, 1991)であり、頸部運動自体は目的が明確ではない。従って、頸部は観察によるイメージ想起が行いにくいと考える。しかし、レーザーポインターを使用して、自己の頸部運動を身体外部に表出することで、視覚的にイメージ想起することができるのではないかと考える。今回、レーザーポインターを用いて頸部運動を視覚化し、イメージ想起時の脳領域を明らかにすることを目的に近赤外光脳機能計測(以下NIRS)を用いて検討を行ったため報告する。【方法】 対象は健常成人男性8名(23.6±2.0歳)とした。方法は、NIRS(島津製作所製FOIRE-3000)を使用し、脳機能測定部位は、脳波における国際10-20法のCzを中心に縦6列、横5行とした。送光・受光プローブは各15個を格子状に設置し、そのプローブ間における49chを計測した。測定肢位は、椅子に腰かけた座位姿勢で行った。課題は、頭頂部に設置したレーザーポインターを壁に投射した状態から、開眼で頸部正中位から右回旋を行い、それに伴い投射された光追視を行った。その後、閉眼で頸部回旋に伴う光の移動をイメージ想起した時の脳活動を計測した。イメージ遂行時間と安静時間は、15秒ずつ交互に3回繰り返し、解析は、各Ch1~49のOxy Hb平均値を用い、レーザーポインターによる光追視イメージ想起時と安静座位時の脳活動差を算出した。統計学的検討は、Wilcoxonの符号付順位和検定を用い、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究参加者に対して研究内容を十分に説明し、文書にて同意を得た。【結果】 Ch9に位置する左下頭頂小葉領域でレーザーポインターによる光追視イメージ想起(0.0044±0.0033)と安静座位(-0.0017±0.0041)において有意差が認められた(p=0.0357)。また、Ch36に位置する左運動前野領域で光追視イメージ想起(0.0024±0.0030)と安静座位(-0.0009±0.0018)において有意差が認められた(p=0.0499)。【考察】 下頭頂小葉は視覚、体性感覚、聴覚などの感覚情報を入力・統合する領域で視覚的運動イメージを伴った身体像を形成する。そのため、頸部回旋に伴うレーザーポインターの光追視をイメージ想起することで、下頭頂小葉領域が活動したと考える。運動前野は下頭頂小葉の入力情報に基づいて、企画・準備・実行を担っており、身体外部からの情報に対応し、運動実行や運動学習を行う領域である。一般的に眼球運動が頸部回旋運動より早く生じるが、今回は光追視を行うことにより、眼運動と頸部回旋運動のタイミングがほぼ同時に行われている。その結果、前運動皮質近傍にある運動眼野や補足眼野などの眼球運動に関与する領域より、視覚的にイメージ想起することによって頸部回旋運動の企画、準備が行われ、運動前野が活動したと考えられる。MNは腹側運動前野、下頭頂小葉、上側頭溝領域などに存在し、これらの領域は連携してmirror neuron system(以下MNS)を形成している。MNSの機能は、模倣による学習や他者の意図の理解などがある。従って、下頭頂小葉と運動前野に活動が認められたことから、頸部の回旋運動を光追視という視覚化することによってMNSが活動し、頸部における効率的な運動学習が行える可能性が示唆された。頸部深層筋は筋紡錘が豊富に存在するため、今後、頸部における視覚と体性感覚の入力情報を明確にするとともに、身体図式が破綻している患者に対してレーザーポインターを使用することで視覚的に認識することが運動療法として有効かどうか検討していく。【理学療法学研究としての意義】 MNSは模倣による学習機能があり、身体図式の構築を担っている。脳卒中患者や頸椎疾患患者は頸部における身体図式が崩れている患者が多い。そのため頸部運動を行う際、レーザーポインターを用いて、視覚化することによって身体図式を再構築できる可能性が示唆された。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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