理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
ラット膝関節の運動制限と膝蓋下脂肪体の萎縮
松﨑 太郎吉田 信也小島 聖渡邉 晶規細 正博
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p. Ab0470

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抄録
【はじめに】 膝蓋腱下部には豊富な脂肪体(以下,膝蓋下脂肪体)が存在し,その柔軟性が関節運動を担保しているとされる。また,膝の痛みに関与する,という報告も散見され,TKA患者で膝蓋下脂肪体を切除した患者では術後の痛みとの相関が見られる事や,伸展制限を生じた膝関節で線維化を生じた膝蓋下脂肪体を切除するなどの報告がなされている。しかしながら,膝蓋下脂肪体の変化を調査した研究はほとんど見られない。我々は以前より当学会にて膝蓋下脂肪体の変化を報告したが,今回は関節不動の要因を増やして何が膝蓋下脂肪体の変化をもたらすのかを調査した。【方法】 9週齢のWistar系雄性ラット30匹を使用した。ラットは8週齢にて購入し,1つのケージに1匹を入れ1週間の馴化期間を経た後に実験を開始した。ラットを無作為に対照群,固定群,固定+運動群,脱神経群,脱神経+固定群の5群(n=6)に分けた。固定群,固定+運動群は麻酔下にて左後肢膝関節をK-Wireを用いた創外固定を用いて屈曲120度で不動化した。固定+運動群は先行研究と同様に,麻酔下で創外固定を除去し,週6日,1日1回3分間,膝関節を約0.6Nで伸展して可動域運動を施行した。可動域運動の終了後は創外固定を再装着した。脱神経群は大腿神経を結紮・切断する事により大腿四頭筋麻痺を生じさせ,屈曲位をとらせた。脱神経+固定群は脱神経群と同様の介入を行った後に創外固定にて屈曲120度で不動化した。各群とも実験期間は2週間とした。実験期間終了後,ラットを安楽死させた後に可及的速やかに後肢を股関節にて離断し,10%中性緩衝ホルマリン溶液にて組織固定,ついで脱灰を行った後に膝関節を矢状断にて切り出し,中和・パラフィン包埋を行った。作製したパラフィンブロックをミクロトームで3μmにて薄切してスライドガラスに添付した後にHE染色を行い,顕微鏡デジタルカメラにて膝蓋下脂肪体を撮影し,膝蓋下脂肪体を構成する脂肪細胞の面積をImage J 1.45を用いて1標本につき無作為に150個以上算出した。統計学的処理には一元配置分散分析を用い,Holmの方法にて多重比較を行った。【結果】 作製した5群の脂肪細胞面積の平均値(単位:μm2)は,対照群1240.8±353.6,固定群940.9±283.4,固定+運動群1097.4±251.8,脱神経群1337.7±430.3,脱神経+固定群865.1±333.5であった。対照群に対し固定群,固定+運動群,脱神経+固定群で有意に脂肪細胞面積が減少していた。各群間で脂肪細胞面積に有意差が見られなかったのは対照群と脱神経群,脱神経固定群と固定群のみであった。【考察】 先行研究では,関節固定2週間での関節構成体の変化として脂肪細胞の萎縮・線維増生を挙げている(渡邉,2007)。また,臨床においても何らかの原因で膝関節の運動が減少した患者では膝蓋腱周辺が凹んでいるものを見る事がある。脂肪体は関節運動や痛みに関与するとの報告が散見されるが,どのような要因で膝蓋下脂肪体の変化が生じるのか,またどうすれば膝蓋下脂肪体の変化を軽減する事ができるのかについては不明である。今回我々は,ラット膝関節に対して様々な介入を行い,膝蓋下脂肪体がどのように変化するのかを検討した。その結果,対照群に対し固定群,固定+運動群,脱神経+固定群では有意な脂肪細胞の面積の減少が見られ,膝蓋下脂肪体の萎縮が出現したと考えられた。一方脱神経群は対照群と有意差は見られず,脱神経+固定群と固定群の間にも有意差は見られなかった。以上の結果から,脂肪体の萎縮は関節固定により惹起されるが,脱神経のみでは引き起こされないことが示された。脱神経時の膝関節には移動などに伴う受動的な運動が発生し,これが脂肪体の萎縮を抑制した可能性が考えられるが,実際のラットの観察では,受動運動はほとんど発生しておらず,関節固定による不動と脱神経による不動の膝蓋下脂肪体に与える影響の差異がどこにあるのかは明らかではない。我々の先行研究では脱神経ラットでは,軟骨表面への血管の侵入が見られない等,関節固定とは異なる結果を報告しており(石井,2010),末梢神経の損傷によって局所環境に変化が生じ,結果として膝蓋下脂肪体の萎縮が見られなかった可能性も考えられる。【理学療法学研究としての意義】 膝蓋下脂肪体は,関節運動に関与する事が知られているにも関わらず,関節の不動による変化についての報告はほとんど見られない。今回の結果から関節運動の有無が膝蓋下脂肪体に影響を及ぼす事が示唆され,早期からの理学療法介入を行う事により,膝蓋下脂肪体の萎縮を予防できる可能性を示した。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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