理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ラット膝関節の屈曲拘縮における加齢の影響
小島 聖細 正博松崎 太郎渡邊 晶規
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p. Ab0471

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抄録
【はじめに、目的】 ヒトを対象とした調査研究より、高齢になるにつれ関節可動域が減少することが報告されている。これには加齢により関節周囲の軟部組織の柔軟性や伸張性が低下し、構築学的変化が生じると考えられている。また別の報告では、加齢による結合組織内の水分量の低下から、組織が速い力に対して最大に抵抗する能力が低下し、可動していた組織面で癒着を生じる可能性が高まり、若年関節より加齢関節で早く可動域が失われるとされている。しかし、これらを組織学的に検討した報告は少なく、加齢による関節構成体の変化や拘縮の発生・進行への影響は明らかにされていない。そこで、本研究では週齢の異なる実験動物ラットを用い、拘縮の発生・進行の程度を病理組織学的に検討することを目的とした。【方法】 対象にはWister系雄ラット全16匹を用いた。9週齢8匹(体重約278g)と、約52週齢のラット8匹を使用した。それぞれ無作為に対照群と実験群に分け、実験群には右後肢に4週間のギプス固定を実施し、膝関節拘縮モデルを作成した。固定肢位は股関節最大伸展位、膝関節最大屈曲位、足関節最大底屈位とした。ギプスは2週間で巻き直しを行うほか、緩みや外れ、足部の浮腫等の不具合を認めた場合は直ちに巻き直しを行い、可能な限り適切な固定を維持した。固定前、ギプス巻き直し時、固定終了後に膝関節可動域を測定した。4週間の飼育期間終了後、両群とも安楽死させ、右膝関節を一塊として採取した。10%中性緩衝ホルマリン液で72時間組織固定し、プランクリュクロ液にて72時間脱灰し、膝関節全体を観察できるように膝蓋骨中央から矢状面に切り出しを行った。その後、中和、脱脂過程を経てパラフィン包埋を行った。3-5μmで薄切後、HE染色を行い、光学顕微鏡下にて観察を行った。加えて画像処理ソフトを用い、染色像から後部関節包の厚さを計測した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は名古屋学院大学動物実験規定に準拠し、同大学が定める倫理委員会の承認のもとに飼育・実験を行った。【結果】 4週間のギプス固定により生じた膝関節伸展制限角度は、週齢の異なる両実験群間で有意な差を示さなかった。病理組織学的所見では、実験群で大腿骨後方の脂肪組織の萎縮・消失、後部関節包の膠原線維束の肥厚と間隙の狭小化を認めた。これらの所見は週齢間で明らかな違いは認められなかった。それぞれの週齢の対照群を比較すると加齢ラットにおいて、軽微であるが実験群と類似した変化を示した。後部関節包の厚さはいずれの週齢においても対照群と比較して実験群で有意に高値を示し、関節包の肥厚が認められた。両実験群での比較においては有意差を認めず、4週間不動後の関節包の厚みにおいて週齢による差は認められなかった。【考察】 対照群間の比較から、加齢による関節構成体の変化が生じているものと考えられた。しかし、4週間不動後の組織所見は同程度であり、加齢によって拘縮の発生および進行が速くなるとは言えないと考えられる。むしろ、不動化前後での変化の大きさを比較すると、若年群の方がより大きな変化を示したものと考えられた。加齢とストレス応答に関し、正常培養細胞を用いた研究において、ストレスに応答する能力が年齢とともに低下してくることが報告されている(東,1999)。本研究における関節の不動化という環境の変化(ストレス)に応答する能力においても週齢で違いがあり、若年群の方がより早く順応した結果、同程度の組織像を呈したものと考えられた。今後さらに固定期間を短期化、または長期化して検討することにより、進行の違いを明らかにすることが可能であると考える。【理学療法学研究としての意義】 理学療法を実施する上で、関節拘縮が対象となることは多いにも関わらず、その介入効果を病理組織学的に検討した報告はほとんどない。加齢による違いを検討する事は、幅広い年代に対して理学療法を提供する我々にとって必要不可欠であると考える。一律に同じ予防、治療を行うのではなく、加齢をはじめとした各条件に応じた理学療法の実施が望まれる。本研究の成果はその一助となるものと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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