理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
高齢者の最大足圧中心移動時の運動戦略および筋活動について
小山内 仁美安食 翼笠原 敏史
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キーワード: 姿勢制御, 加齢, 足圧中心
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p. Ab0651

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抄録
【はじめに】 加齢により,体力の各要素は衰えるが,特に,平衡機能の低下が著しく,転倒の発生は加齢に伴って増加する。従って,転倒予防は健康寿命の延伸と合わせて医療費の抑制など経済効果も期待できる。一般的に矢状面における姿勢制御は,主に足関節戦略によって行われる(長谷ら)が,外乱刺激が与えられた時の高齢者は股関節戦略をより用いる(毛利ら)。姿勢・運動制御の先行研究では,静的立位や外乱刺激を用いた受動的な運動や下肢の関節運動を制限した運動を調べている。日常生活の中では受動的な運動のみならず,能動的(随意的)に重心を動かし,その場に重心を安定保持する能力が必要となる。また,日常生活において関節運動に制限はない。本研究では,3次元動作解析器,筋電計,床反力計を用いて足圧中心の随意的最大移動時の運動戦略と筋活動を高齢者と若年者で比較し,加齢による変化を明らかにする。【方法】 対象は健常若年男女6名(平均年齢20.8 ± 1.6歳,平均身長164.7 ± 11.8 cm,平均体重56.7 ± 12.2 kg)と健常高齢者13名(平均年齢68.8 ± 3.2歳,平均身長163.0 ± 3.2 cm,平均体重57.5 ± 16.0 kg)とした。被験者に歩隔を肩幅とし,裸足で床反力計に立たせ,上肢は胸部の前でクロスさせた。この時,床反力計の中心と被験者の両内果の中点から前方5 cmの位置を一致させるようにした。被験者前方にモニターを設置し,被験者のCOP位置を映し出した。関節運動に制限は設けなかったが,爪先や踵が浮かないように依頼した。運動課題は,モニター上に表示した床反力計の中心を示す点と被験者のCOPを一致させ,保持させる課題,COPを前方または後方最大移動し,保持させる3課題とした。3次元動作解析器より各下肢関節運動,表面筋電計より下肢筋の筋活動を記録した。測定筋はいずれも右側の腹直筋(RA),脊柱起立筋(ES),大腿直筋(RF),大腿二頭筋(BF),前脛骨筋(TA),ヒラメ筋(Sol)とした。データ解析は各課題の安定保持している500 msを視覚的に判断し,この間の各関節角度,COP移動量,筋活動量を用いた。統計解析はCOP移動量の年齢差をt検定,下肢関節角度または筋活動量とCOP移動量はピアソンの相関係数を用い,5%未満を有意とした。【説明と同意】 本研究は本学に設置されている倫理委員会の承認を得ており,同意を得た者が実験に参加した(承認11-03)。【結果】 前方移動量は若年者群65.6 ± 13.0 cm,高齢者群63.2 ± 8.5 cmであった。後方移動量は若年者群67.7 ± 8.7 cm,高齢者群56.6 ± 8.0 cmで若年者が大きかった( p < 0.05 )。若年者群はCOP移動量と膝関節運動との間に負の相関傾向を示していた( p = 0.065 )。高齢者群はCOP移動量と股関節運動に正の相関を示していた( p < 0.05 )。関節間の相関は,若年者群で膝関節と足関節,高齢者群で股関節と膝関節および膝関節と足関節で有意であった( p < 0.05 )。COP移動量と各筋活動量との間には若年者群,高齢者群ともにESとSolで正の相関( p < 0.05 ),RFとTAで負の相関を示した( p < 0.05 )。高齢者群のみCOP移動量とBFにおいて正の相関を示した( p < 0.05 )。【考察】 高齢者の加齢による身体機能の低下によるCOP後方移動量低下は過去の報告と一致する。若年者群のCOP移動量と膝関節に相関関係の傾向がみられていたが,他の関節において相関関係はみられなかった。Linらは高齢者に比べ若年者はより多様な運動戦略を持っていることが報告されている。Bernsteinの運動制御のシステム理論から,若年者の安定した運動成績は多様性の中から統制された運動制御により成されるものであり,「冗長な自由度の克服」を表している。また,関節間の有意な相関関係は膝関節と足関節のみで他の関節間に相関を認めなかったことからも,この考えを支持する結果といえる。一方,高齢者群はCOP移動量と股関節に相関関係を認め,これまでの高齢者の運動戦略の研究結果と一致する。また,高齢者の股関節と膝関節,膝関節と足関節に相関関係を認めることから関節運動間に一定の協調性を持っている可能性が示唆される。両群とも下肢筋活動の有意な相関関係は関節運動に比べCOP移動量との間で多数であった。COP最大位で保持する時,前方(または後方)に倒れないよう制動するために背側筋群(または腹側筋群)が遠心性に働く。しかしながら,一般的な筋の作用と関節運動との関係が本研究課題では一致していなかった。姿勢制御において,中枢神経系は姿勢を安定化させるために各関節を制御するのではなくCOPを安定化させることを優先している可能性がある。【理学療法学研究としての意義】 高齢者は若年者に比べて一定の運動戦略をとり,冗長性が低下する。このことは転倒に対する運動戦略の乏しさをもたらす。バランス訓練は関節運動と筋活動の関係のみならず,COP移動と筋活動に考慮した訓練内容が重要である。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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